1
ふと、目が覚める。 もう周りはすっかり明るくなっている。 遠くで波の打ち寄せる音が響いてくる。 『ああ、孝夫君の家の別荘に来ていたんだっけ』と思い出す。
手をのばして枕元に置いてあった腕時計を取り、時刻をみる。 まだ、6時に10分ほど前である。
横から孝夫が声を掛けてくる。
『ああ、目が覚めました?』
『うん、何だか早く目が覚めて』
『どうですか?。 身体の調子の方は』
『うん、有難う』
私も「ああ、そうだ」と思って、手足を動かし、自分の身体に意識を集中する。
『そうだね。 もう、どこも何ともないようだね。 すっかり回復したようだよ』
『ああ、それはよかったですね。 それじゃ、もうそろそろ起きましょうか』
『そうだね』
孝夫が起きあがるのと一緒に私も起き上がって、すぐ横のカーテンを開く。 ガラス戸越しに雲一つない青空が見える。
『今日も天気はよさそうだね』
『そうですね』
早速にパジャマを脱いでズボンとスポーツシャツを身に着ける。 孝夫も普段の服装になる。 そおっとふすまを開けて廊下に出る。 便所に行くつもりで祥子達の部屋の前を通ると、中で何かしている物音がする。
ふすま越しに、『お早う。 もう起きたかい?』と声を掛けてみる。 中から『あら、祐治さんももう、起きちゃったの?』との祥子の声。
『うん、もう目が覚めちゃったんでね。 孝夫君も一緒だ』
『ああ、そう。 あたし達もふとんの上に座って、さて、まだ早いけどどうしようかって言ってた所なの。 すぐに着替えて出ていくわ』
『うん、僕達は先にトイレに行ってくる』
『ええ、じゃ、終わったら食堂へ来てね』
『うん、解った』
私と孝夫がトイレから出て食堂へ行くと、祥子達2人はもう椅子に座って待っている。 美由紀の両手首はもう後ろ手に重ねて縛ってある。 そして食卓の上にはトマトジュースが八分目ほど入った4つのコップが置いてある。 私と孝夫も椅子に座る。
皆が口々に『お早うございます』と挨拶する。
『美由紀はもう縛られちゃったのかい』
『ええ』
美由紀は恥ずかしそうに下をむく。
『美由紀はね』と祥子が言う。 『こういう格好であたしにお給仕をして貰わないと、何を飲んでも美味しくないのよ』
『そんなことないわ』と美由紀が後ろ手の身体をよじる。
『まあまあ』と仲裁に入ってなだめる。 皆で笑いだす。
ジュースを飲む。 冷たくてとてもうまい。 美由紀には祥子がゆっくり飲ませている。
『それでどうお?。 身体の方は』と祥子が訊いてくる。
『うん、もう、すっかり回復して、どこも何ともないよ』
『ああ、よかった』
祥子は大げさに声をあげる。
『そんなに心配してくれてたのかい?』と笑いながら質問する。
『そりゃ、そうよ。 祐治さんが駄目になると、プレイの楽しみが半減してしまうもの』と祥子はさっそく露悪家ぶりを発揮する。 そして、『さすがは祐治さんね。 これで今日も思う存分楽しめるわね』と言う。
『まあね。 でも、お手軟らかに頼むよ』
美由紀は後ろ手のままで、孝夫はコップを手にして、共ににやにや笑っている。
2
皆がジュースを飲み終る。
『それじゃ、朝食前にまず一度、海を見てこよう』
皆で一緒にゴムぞうりをはいて浜に出る。 今は潮が引いている最中で、昨日の夕方よりは大分下の方に海が退いている。 沖の岩も水際から大分近くになり、大きくなって見える。 空には雲一つなく、青く澄み切っている。 そしてまだ低い太陽からの光が右の岬の山肌に映えている。
乾いた砂を通り越して、黒く湿った砂まで出てさくさくと歩く。 そして水際にまで出て行って、寄せては返す水流が足に絡まるのを楽しむ。 ひんやりした風が心地よく顔を打つ。 海は比較的静かで、波が近づいてきてはぐうっと50センチほどまで高まり、大きく崩れてどっと押し寄せては引いていく。 遠く水平線まで何一つさえぎるもののない海が拡がっていて、素晴らしく気持がよい。
『こういう広々とした景色を見ていると、せせこましい家の中で遊ぶ気がしなくなるね』と私が言うと、
『そうよね。 だから、せっせと外でプレイをしましょうよね』と祥子が応える。
祥子はあくまでプレイから離れない。 横で孝夫がくすりと笑う。
水際を少し歩いたのちに別荘に戻り、中に入る前に建物の周りを一回りする。 建物の周りは主として黒松からなる林が取り巻いており、松は大木もかなり多く、太い枝を自在に伸ばしている。 そして、その林の所どころに開けた場所があって草が茂り、紫色の菊のような花の群落が目につく。
まず建物の右手に回ると、南側は幅5メートルばかりの開けた庭になっていて、松の木が何本かまばらに生え、庭の外側には黒松の林が広がる。 そして、南に回ってすぐの8畳のガラス戸の前にもかなり背の高い松の木が1本あって四方へ枝を広げ、地面に大きく影を落としており、そのすぐ横に直径1メートルばかりの木の丸いテーブルが雨ざらしで置いてある。
『ここはお昼を簡単に済ましたりするのに便利ね』と祥子が言う。 『いい日陰にもなってるし』
『そうだね』と同感の意を表す。 『それに夕涼みにも良さそうだし。 ただ、椅子はどうなるのかな』
『ええ、それは』と孝夫が応えて言う。 『あの、戸外用の折りたたみの椅子が6脚ばかり物置に入ってますから、人数分だけ出してここに置いときましょうか』
『うん、それがいいな。 じゃ、後で一緒に持ってきておこう』
さらに裏手へと回ると、ちょっと開けた奥庭の先に平坦な木立がなおも20メートルほど続き、そのさらに先に高い岩の崖がつっ立っている。
祥子がしきりにきょろきょろして何かを捜している。
『祥子、何を捜してるんだい』
『ええ、吊りに適当な木がないかと思って』
『ふーん。 で、あったかい』
『ええ、あれなんか、どうかしら』
祥子が1本の木を指差してみせる。 それは、胸の高さの所の直径が30センチもありそうな大きな松の木で、2メートル余りの高さの所に、直径10センチ余りの太い枝を水平に伸ばしている。
『なるほど、うまく使えそうだね』
『ねえ、そうでしょう?』
祥子は自慢するようにそう言う。 そして、さらに笑いながら言う
『祐治さんも美由紀も、何かいい機会があったら、あれに吊ってあげるわね』
『うん、そうだな』
私も笑って受け流す。
『好きですね』というような顔をして、孝夫も横で笑っている。 美由紀も後ろ手のままで、笑みを見せながらその枝を眺め、何かうなずいている。
3
さらに物置との間を通って建物の北側に回り、食堂の横を通って玄関に戻る。
『じゃ、あたし達は朝食を作るわ』と祥子と美由紀は別荘に入って行く。 私と孝夫は一旦物置へ行って折りたたみの椅子4脚を持ってきて、先ほどの戸外の丸テーブルの周りに並べる。 そして部屋に戻ってふとんを上げてから食堂へ行く。
食堂では祥子と手が自由になった美由紀とが並んで朝食を作っている。 食卓には既に幾つかの丸いパンを積み上げた竹籠が中央に置いてある。
『すぐに出来上がるから、ちょっと待ってて』
『うん』
孝夫と2人、椅子に座る。
ほどなく、『さあ、出来たわよ』と祥子が4つの皿を食卓に並べる。 ベーコンエッグにレタスを主体としたサラダを添えた皿である。 デザートにと切ったプリンスメロンが1つの皿に盛られて中央に置かれる。 美由紀が紅茶を入れて配る。 そして祥子がまた『美由紀、ちょっと』と声を掛けて、美由紀の手首を後ろ手に縛り合せる。 美由紀も嫌がる風もなく、手首を縛らせている。
『祥子もまめだね。 そうやって、1回1回、手首を縛るのかい?』
『ええ、美由紀がそうしてって甘えるものだから』
『そんなことないわ』
美由紀が口を尖らす。 しかし、手首は動かさずに祥子の縛るに任せている。
縛り終えて祥子と美由紀も並んで席に着く。 『お待ち遠さま、じゃ、頂きましょう』との祥子の言葉に皆が食事を始める。 祥子がまた、自分よりも美由紀を優先して食事を進めている。 美由紀が毎度嫌がらずに後ろ手に縛られて、祥子にお給仕して貰って食事をしている気持が解るような気がする。
食事が少し進んで所でちょっと手を休めて、昨夜に寝床の中でふと考えてたことを2人に訊く。
『ところで、昨夜はお2人ともすぐに寝られたかい?』
『いいえ』と美由紀。 『寝床が急に変わって、それに波の音が耳について、なかなか寝付かれなかったの』
『うん、僕もそれでしばらく寝られなかったけど、今日のことなどを考えていたら、いつの間にか寝てしまった』
『それでね』と祥子が笑いながら話を取る。 『美由紀があまり何時までももじもじしてたので、「美由紀、眠れないの?」って訊いたの。 そしたら美由紀が「ええ」って言うの。 それでまた、「それじゃ、また縛って上げましょうか」って訊いたら、また「ええ」って言うの。 それで一度起きて明りを点けて、簡単に後ろ手に縛って、足首も揃えて縛ってあげたの。 そうして明りを消したら、美由紀も安心して、すぐに寝られたらしいわよ』
『ふーん、やっぱりね』
私の感心した言葉を祥子が聞きとがめる。
『え?、何がやっぱりなの』
『うん、昨夜ね。 ことによったら今時分、祥子が美由紀に紐を掛けて寝かせているんじゃないかって考えてたんでね』
『まあ、感がいいわね』。 祥子はにっこり笑う。 『でも、それを望んだのはあたしではなくて、美由紀の方よ』
『うん、それはそうとして』と改めて美由紀に訊く。 『美由紀、そうして縛って貰ったらほんとにすぐに寝られたのかい?』
『ええ』
美由紀は後ろ手のまま、恥ずかしそうに下を向く。
『でも、寝るんだったら、後ろ手よりも前で縛って貰った方が楽に寝られるんじゃないのかい?』
『ええ、でも』と祥子が引き取る。 『美由紀は後ろ手の方が気持が落ち着いて、よく寝られるらしいの。 ね?、美由紀?』
『ええ』
美由紀は下を向いたまま、また恥ずかしそうに応える。
『ふーん』
『すごいですね』と孝夫がつくづく感心した、というような顔をする。 会話がとぎれ、皆がまたそれぞれに食事を進める。
食事の終り近くになって、皆が果物に手を出して自分の皿に取る。 美由紀にはまた祥子が取って、スプーンで食べさせている。
会話を再開する。
『ところで予定によると、今日はとにかくまず、浜に出て遊ぶんだったね』
『ええ、そうよ。 ただし、それには、どんなプレイが出来るかの様子をみる意味もあるんだから、ただ遊んでいては駄目よ』
『ふーん。 真面目なんだね』
『そりゃそうよ。 せっかく、こんないい所に来たんですもの』
祥子の断固とした言い方に皆が笑い出す。 私も笑いながら言う。
『でも、まあ、プレイのアイデアについては祥子に任せるよ。 僕達は祥子の考えてくれたプレイを楽しめばいいんだからね』
『そうね』と美由紀も笑いながら同調する。 孝夫も『そうですね』という。
『まあ、みんな、ずるいわね』
祥子は口ではそう言うが、まんざらでもない顔をしている。 まあ、本番ともなれば、新しいプレイはほとんど全部、祥子が考えてくれることになるであろう。
食事が終り、また美由紀の手首の紐を解いて、皆で後片付けをする。 そしてそれも終って、一同がさっそくそれぞれの部屋に戻って、水着に着替えて出てくる。 私のはいつも穿いている平凡な紺の水泳パンツ、孝夫のはえんじ色の地の両脇に黒の線が縦に入った水泳パンツである。
一方、女子勢では、祥子は黒に近いえんじ色の水泳着に真赤な水泳帽といういでたちである。 そして、美由紀は頭に白い水泳帽をかぶり、体に明るい青色の水泳着を着けている。 ただ、その水泳着には乳房にあたる所の上下に横に白のストライプが一本づつ入っていて、気のせいか、それが何となく胸に巻きついた白い紐のように見える。
孝夫もそう思ったのか、美由紀の胸を指さして言う。
『そのストライプ、面白いですね』
『ええ』
美由紀が恥ずかしそうな顔をする。 そして言い訳のように言う。
『買うときに祥子さんが是非これになさいって言って選んだの』
『美由紀だって、それがいいって言ったのよ』
『そんなことないわ』
美由紀はまた口をとがらす。 しかし、まんざらでもないような顔をしている。
『みんなの水着は何となくそれぞれの性格を表しているみたいだね』と私が言う。 『ほんとね』と皆がまたお互いの水着を見回す。