1
昨日のプレイがさすがにきつかったのか、昨夜はぐっすり寝て、朝、眼がさめて腕時計を見たら、もう9時に近い時刻である。 隣のふとんに孝夫の姿が見えない。 起き上がってみる。 多少は後に疲れが残るのではないかと心配していたが、起きた時の感じではもうすっかりいいようである。
パジャマを普段の服に着替えて食堂へ出ていく。 みんなが集まっている。 食卓にはお皿や紅茶々碗も並べてある。
皆と『お早う』との挨拶を交わす。
『みんな、朝飯を待っててくれたのかい?』と訊く。
『ええ』と孝夫。 『祐治さんがとてもよく寝ておられたので、まあ9時までは起こさないで待っててみましょう、ということで』
『それにしてもよく寝てたようね』と祥子が言う。
『うん、ぐっすり寝てて、孝夫君が起きたのもちっとも知らなかった』
『そうね。 無理もないわね』
祥子はうなずく。 そして続ける。
『それでどお?。身体の調子の方は』
『うん、もうすっかりいいようだ。 いつもと変らないよ』
『じゃ、今日もたっぷりプレイが出来るわね?』
『まあね。 でもお手柔らかに頼むよ』
横で孝夫が『タフですね』とまた感心したような顔をする。
『ちょっと口だけすすいでくる』
そう断って私は洗面所に行き、歯をざっと磨き、水で顔を洗う。 そしてまた食堂に戻る。 その間に食卓上にはハムエッグとサラダの皿と紅茶が並べられ、パンが中央の竹の篭に盛られていて、私が戻ってきた時には丁度祥子が美由紀の後ろに回って両手首を縛り合せている。
『いつもながら勤勉だね』
『ええ、ほんとにこの子は手がかかってしょうがないの』
笑いながらの私と祥子の応酬に、美由紀も孝夫も笑っている。
ついで、祥子がポットのお湯を使って紅茶を入れ、孝夫が配る。 美由紀は後ろ手で所在なさそうに見ている。
皆が席に着き、『それでは頂きましょう』との祥子の声を合図に朝食が始まる。 祥子はまず美由紀にお給仕してから、自分の紅茶に手を出す。 いつものことながら面倒見がよい。 しかし、見方を変えれば、これはまさに美由紀女王様に召使祥子がかいがいしくお給仕している図でもある。
皆が一通り手をだした頃、孝夫が
『それにしても昨日のプレイはすごかったですね』
と言い出す。 すぐに祥子が応じる。
『そうね。 厳しさから言っても時間から言っても、あれだけの本格的なプレイはそうやたらには出来ないわね』
私も昨日の色々な場面を思い起こす。
孝夫が続けて訊く。
『今度の合宿では、まだまだあんな厳しいプレイが続くんですか?』
『そうね』。 祥子は首をかしげる。 『あたし、まだ幾つかプレイを考えているけど、あんな本格的なのは他にはないわ』
私が口をはさむ。
『差し当って、今日はどうなってる?』
『今の所、少なくとも本格的なプレイは考えてないけど』
『ふーん。 そうすると、今日は無事に遊ばせて貰えるのかい?』
『まあね』
祥子は笑う。
『そうですね。 祐治さんだって、時にはプレイの休養日も作っておかないと、身体がもちませんよね』と孝夫が言う。
『うん』
私はうなずきながらも、少し物足りないような気がする。 すると、それを見透かすように祥子が言う。
『でも、昨日のプレイだって、おとといになって急に思い付いたプレイだったわよね。 だから今日だって、すぐに面白いプレイが考え付くわよ』
私はうなずく。
『乞う、ご期待か』
『まあね』
顔を見合せて笑い、そのまま食事が進む。
2
朝食をすんで、美由紀の手首の紐を解き、簡単に後片付けをしてから、皆が水着に着替える。 そしてまた、ビーチ・パラソル、スコップ、バケツ、敷物、タオル、目覚し時計などを持って、10時頃にみんな一緒に浜に行く。 祥子は相変らず例の赤いバッグを提げてくる。 私がバッグを指差して、『真面目だね』と笑う。 祥子も『そうね』と自分でもおかしそうに笑う。
浜に出る。 海ははるか下の方に退いている。
『昨日、祐治さんを埋めたのはどこだったかしら』と美由紀が言い出す。
『そうだね』
砂浜を見渡す。 夜の間にもう1回満潮があったので、砂を掘った跡もすっかり波でならされてしまっていて、ちょっと判らない。 孝夫が言う。
『穴は判らなくても、美由紀さんをくくりつけた杭は残ってる筈ですね。 昨日はつい抜くのを忘れてしまったので』
『そうね。 でも』。 祥子は首をかしげる。 『砂に隠れるくらいに打ち込んだのだから、うまく見付かるかしら』
私が言う。
『そうだな。 でも、杭は残しておくと危ないから、探して抜いておこう』
『そうですね』
皆が同意して、こことおぼしきあたりを探す。
『あ、あった。 これじゃないかしら』
祥子が声をあげ、指で砂の面を指さす。 見ると、いつも祥子が使っているのと同じ紐の先が砂の中から少し顔を出している。
『ああ、これらしいですね』
孝夫が砂を手で掘ってみる。 杭の頭とそれにはめ込んである丸い環が出てくる。
『ああ、これなの』
美由紀が感慨深そうに杭の頭を見詰める。
孝夫が右手の3本の指を環に差し込み、にぎってぐっとひっぱる。 しかし、杭は簡単には抜けそうもない。
『ちょっと掘るか、道具でも使うかしないと無理みたいだね』
『そうですね。 じゃ、ちょっと道具を取ってきましょう』
孝夫は別荘へ行く。
『ここが美由紀の杭の位置だとすると』
私は杭から4メートルばかり上へ歩いて行く。 祥子と美由紀もそばにやって来る。
足元を指差す。
『僕が埋められてたのはこの辺かな』
『そうね』と祥子。 そしてその右の1メートル半ほどの場所を指差す。
『そうすると、朝、美由紀を埋めたのはこの辺ね』
『そうだな』
『あの時、ああやって祐治さんと美由紀とが並んでる光景って、とてもよかったわよ』
『あら、いやだ』
美由紀はまたいつものせりふを言って赤くなって下を向く。
私は自分の埋められていたとおぼしき場所に腰を下ろして、あたりを見回す。 眼の高さがまるで違うので昨日の眺めとは印象が大分異なるが、それでも昨日の感じが色々とよみがえってくる。 祥子と美由紀も立ったまま、周りを見回している。
ふと、昨日、自分が頭まで埋め込まれたプレイでの感触を思い出す。
『それで、荒船さんが来た時には、この辺に大きな砂山があったんだね』
『ええ、そう。 それで、その前にお花やお線香が上がってたりしたんで、荒船さんが妙な顔をして』
祥子がおかしそうに笑う。
『ふーん。 その顔、僕も見たかったな』
『ええ、でも、それはちょっと無理ね。 孝夫もそこまでは写真に撮ってはなかったようだし』
『うん』
私は改めて、その時の荒船さんの顔を想像してみる。 しかし、どうもうまくまとまらない。 その顔を見損なったのがほんとに惜しいような気がしてくる。 無理なことと解ってはいるが。
『それで、あの時、祥子が、「ある人の菩提をとむらうため」、だとか何だとか、ずいぶん際どいことを言ってたね。 僕は聞いてて、ひやひやしてたよ』
『そうね、大分スリルがあったわね』。 祥子は笑う。 『ほんとはあんな目立つ砂山なんかを造らずに済ませられれば、もっといいんでしょうけど』
そう言った後、祥子は急に『あ、そうだ』というようなことを口の中で小さく言い、こっくりうなずく。
『何かあったのかい?』
『ええ、いいことを思いついたの』
祥子はにこっと笑う。 また何か、プレイのアイデアでも浮かんだんだろう。
孝夫が帰ってくる。 手には、昨日、祥子が手にしていた杭と同じもう1本の棒と、スコップとを持っている。
『まず、これでやってみましょう』
孝夫は少し砂をかい出して、杭の環に棒を通す。 そして棒の頭をぐっと持ち上げる。 しかし、棒の先が砂にもぐってしまって、杭は上がらない。 私は思い付いて、少し上から、昨日、小テーブルの足の下に敷いた板を持ってくる。
『これを敷くといいんじゃないかい?』
『そうですね』
孝夫はそれを受け取って、棒の先の下に敷く。 そしてぐうっと棒の頭を引き上げる。 てこの原理で杭が少し上がる。 『うまい、うまい』と皆が手をたたく。
孝夫が棒の位置を少し直して、もう一度ぐうっと力を入れる。 杭が10センチ余り頭を出す。 もう一度、棒の位置を直してぐうっと引き上げ、杭が30センチほど抜けた所で両手でぐっと引き抜く。
杭が抜ける。 孝夫が息をはあはあさせる。
『ずいぶん、しっかりしてるんだね』
『そうね。 これならどんなプレイに使っても、抜ける心配はないわね』
祥子も満足そうにそう言って、うなずく。
『じゃ、また、「ラウンジかもめ」を設営しましょう』
孝夫がスコップで穴を掘り、ビーチ・パラソルを立てる。 そしてその横に敷物を敷き、祥子のバッグを載せ、タオルや目覚し時計をその横に置く。 祥子が敷物を見て、また一つうなずく。