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5.1 朝

第5章 湖畔での一日
05 /24 2017


  ふと、目が覚める。 レースのカーテンの引いてある窓の外は、もうかなり明るくなっている。 枕もとの女物の腕時計をとってみる。 5時半を過ぎた所である。 まだ誰も起きてくる気配はなく、あたりはしーんとしている。 思わずあくびが出そうになって、あごが動かないことに気がつく。
『ああ、今日は例の口枷をしたままだったっけ』
  ところで今日はどんなプレイをすることになるのやら。 何でも凝固の速いセメントを使って身体を埋め込んだコンクリート・ブロックを造る積もりらしいけど、どんな姿で埋め込まれるのかしら。 期待に胸がふくらむ。
  ふと、昨夜は美由紀を例の輸送用箱に納めて寝たんだっけ、と思い出す。 今時分、美由紀はどうしてるかしら。 まだ眠ってるかしら。 それとも眠れぬままに見えない眼を見開いてもじもじしてるかしら。 たまらなく愛しくなる。
  それにしても、美由紀は同じM仲間ということもあるんだろうけど、ずいぶん私の事を思ってくれてるようである。 私の方も、もし美由紀さえよければ、美由紀を将来の伴侶としてもいいような気になってきている。 もしかすると将来は2人が一緒になるかも知れない。 そうすると祥子がひとり浮いてしまうが、祥子とてもいつまでも美由紀と一緒に居て、レズ的なSMプレイを続ける積りでもなかろう。
  それに邦也が居る。 今の所、祥子は邦也をいい玩具にしているだけのようだけど、それは形を変えた愛情の表現なのかもしれない。 将来、私と美由紀、邦也と祥子の組合せがうまく出来上がるならば、既にある孝夫と玲子とのカップルと共に、かもめの会のメンバーが皆、それぞれに落ち付くことになる。 この3組のカップルが出来たときの会のプレイの様子は、当然、今とは違ってくるだろうが、それはその時にまた考えればよい問題だろう。
  私は「かもめの会」の将来について、希望的観測をまじえて、色々と想像をたくましくする。 そのうちにまた眠くなり、何時とはなしに寝入ってしまう。
  次に目が覚めたときには、もうあたりはすっかり明るくなっている。 また枕元の時計を手にとってみる。 もう7時10分前である。
  右のふとんの孝夫が『ああ、お目覚めですか?』と声をかけてくる。
『むん』と返事をする。
『もう、起きましょうか』
『むん』
  私は静かに上体を起こす。
  左のふとんでも邦也が目を覚ましたらしく、『もう、起きようか』と言って起き上がる。 孝夫も起き上がる。 手早くふとんをたたんで、皆が服を着る。 私はブラウスとスカートを身に着ける。
  ちょっと壁の鏡で顔を映してみる。 女の子の顔のお化粧が少し崩れている。 バッグから化粧道具を出して、ちょっとパフで叩いてみるが、思うようには直らない。 恐らくは髭が伸びて、お化粧が浮いてるのだろう。
  2人に手真似で、お化粧するから、と合図して先に行って貰う。
『いい心掛けだね』
  邦也はそう言って笑い、孝夫と2人で食堂の方へ行く。 私は洗面所に行く。
  洗面所ではまず、リムービングクリームを使ってファンデーションを紙で軽く拭き取る。 赤い点のついた方の蛇口をひねる。 かなり熱いお湯が出てくる。 お湯をボウルにためて、石鹸とお湯とで肌をしめらせ、軽く安全かみそりを当てる。 そして洗面し、タオルで水分を拭ってから、ローションを使って肌を整え、ベースクリーム、ファンデーション、フィニシングパウダーと順に使ってメイクをし直す。 そしてさらに口紅などを簡単に入れ直し、かつらの髪の毛も軽くすいて整えてから食堂に行く。
  食堂では祥子と玲子がもう台所に立って、朝の食事を作っている。 そして私の顔を見て言う。
『ああ、祐子さんも来たわね。 これでみんなが揃ったから、さっそく美由紀にお目通りしましょう』
  さっそく孝夫と邦也が箱を食堂の隅から中の方に持ち出す。 4箇所の掛け金を外す。 孝夫が蓋を取る。 皆が一斉に中を覗き込む。 中には昨夜入れたままの袋が横たわり、3本のベルトで留められている。 祥子が
『美由紀、元気?』
と声を掛ける。 袋の顔に当たる所から、
『ええ、元気』
との美由紀の声が聞こえる。 皆がほっとした顔をする。
  私と玲子が3本のベルトをはずす。 祥子が袋の口を絞ってある紐を解いて口を開け、下にずらせて美由紀の顔を出す。 美由紀は鼻をマスクで覆われ、両眼を一枚の布粘着テープで蓋されて、口を軽く開けている。
  祥子が眼の上の布粘着テープをゆっくりはがす。 美由紀の軽くつぶった形のよい目が現れる。 そして美由紀はゆっくり眼をあけ、首を左に回して上を見てにっこりする。
『ご苦労さま。 さっそく出してあげるわよ』
『ええ、有難う』
  玲子が鼻のマスクをはずす。 美由紀がほっとした顔をして口を閉じる。 孝夫と邦也がそっと袋のままの美由紀をかかえ上げ、箱の外に出して立たせる。 そして袋を引き下げて脱がせる。 祥子が美由紀の足首の紐を解く。
『手はもうしばらくの間、このままにしておくわね』
『ええ』
  美由紀がこっくりうなずく。
  手を除いてすっかり自由になった美由紀は、しきりに腰を曲げたり伸ばしたり、首や肩をゆっくり動かす。
『有難う。 もう、よくなったわ』



『それじゃ、先に食事を作ってしまうわね』
  祥子はまた玲子と台所に立ち、朝食作りを再開する。 美由紀は両手を後ろ手にくくられたままなので、しょうことなしに椅子に腰かけてぼんやり食事作りを眺めている。
『どうでした?。 昨夜はよく眠れました?』と邦也がきく。
『ええ。 初めは手の位置が気になったり、呼吸が気になったりして、なかなか寝付かれなかったけど、そのうちに何となく寝てしまったみたい。 それから後は、さっき箱が動かされるまで目が覚めなかったわ』
『すごいな』
  邦也がまた感心した顔をする。
  祥子が台所から声を掛ける。
『でも箱に入れられると刺激がないから、そのうちには眠ってしまうものなのよ。 邦也さんでも実際に経験してみればすぐ解るわよ』
『祥子さんは経験したことがあるのかい?』
『そんなことは、あたしは経験しなくても解るの』
  皆がどっと笑う。
『試しに邦也さんもやってみたらどうですか?』と孝夫も笑いながら言う。
『いや、僕はとても』
  邦也が手をふって辞退する。 皆がまたどっと笑う。
『それで、何か特に辛いことはありませんでした?』と今度は孝夫がきく。
『ええ、特に苦しいことはなく、呼吸も順調だったけど、蓋をして掛け金を掛けた音が伝わってきたとき、もう自分じゃ蓋を外せないし、箱の中で何かあっても誰にも知って貰えない、と思ってとても心細かったわ。 でもそれも、時間が経つうちに慣れてしまったみたい』
『そうだね』の積りで私は『むん』と声を出し、大きくうなずく。
『その心細さがMの人には堪まらない魅力なのよ。 ね、祐子さん?』と祥子がまた流しの前から声を掛けてくる。  また『むん』とうなずく。
  食事が出来上がり、テーブルの上に料理をのせた皿や箸やスプーンが並べられる。 私の前には牛乳を八分目ほど入れたコップとストローが置かれる。
『祐子さんは今朝も牛乳よ』
『むん』
  祥子がトースターでパンを焼き始める。 玲子が皆のカップに紅茶を入れる。 『それではいただきましょう』との祥子の声で、皆が食事を始める。 美由紀には今朝は祥子がお給事している。
  また食事をしながらの会話が始まる。 まず邦也が口を開く。
『ここは静かでいい所だね』
『ええ、S湖の景色がとてもよかったわ。 背後の山並みが青い水に映って素晴らしかった』と玲子。
  美由紀がきく。
『そんなによかった?』
  それを受けて『ああ、そうそう』と祥子が言う。 『美由紀はまだ、湖を全然見てないのね。 昨日はまっすぐここに着いて、そのまま荷物の着くのを待ってたので、寮の門の外には出なかったから』
  それを聞いて私も気が付く。
『なるほど、美由紀はまた車のトランクにでも入れられて来たらしい』
  そこで孝夫が言う。
『後で皆で一緒に近くを散歩しましょう。 まだみんなも車の窓から見ただけですから、ゆっくり歩いてみるのもいいでしょう。 湖に沿った散歩路が素敵ですよ。 それに湖には桟橋もあって、ボート位は置いてありますし』
『ああ、ボートもあるのかい。 それはいい』
と邦也がはしゃぐのを、祥子が笑いながら水を差す。
『でも、今日は忙しいのよ。 ゆっくりボート遊びをしてる暇はないかもよ』
  それで話がとぎれて、しばらく食事が進む。 私はストローで牛乳をすする。
  少しして、今度は孝夫が質問で会話のきっかけを作る。
『ところでさっき、今日は忙しいって言ってましたけど、これからどういう予定になってます?』
『そうね』と祥子。 『予定としては、この食事が終ったらすぐ、孝夫が昨日造ってくれたコンクリート・ブロックを壊してみて、それでいいとなったら、それからは色々と祐子さんとコンクリートとの相性をみるテストをする積りだけど』
『色々と、といいますと?』とまた孝夫がきく。
『ええ、まず、コンクリートは2時間位で固まるということだから、少なくとも午前中に一度、小手調べのテストをして、午後にも一度、今度は少し本格的なテストをする積りなの。 でもそれだけだと固まるのを待つ時間もあるから、まだ時間の余裕があるかも知れないわね。 その外にも何かしましょうか?』
『うん、いいね』とまた邦也が真っ先に賛成する。
『邦也さんは何をするのか解っているの?』
『いや。 でも、何かプレイをするんだろう?。 プレイなら何でもいいよ』
『たとえ、邦也さんを責めるプレイをするんでも?』
『うん、いいよ。 もう、覚悟が出来たから』
『邦也さんもすっかり大人になったわね』
  祥子が笑う。 皆も笑う。
『いいよ、いいよ。 僕は何を言っても笑われることになってるんだから』
  またひとしきり笑い声が続く。



  やがて皆の食事が終る。 さっそく祥子が指示する。
『じゃ、昨日造ったコンクリート・ブロックを持ってきて』
『はい』
  孝夫は出ていって、やがて30×20×20センチほどのコンクリートの直方体を両手で重そうにかかえて戻って来る。 玲子がテーブルの上を少し片付けて新聞紙を敷く。 孝夫はコンクリートの直方体をその上にそっと置く。 そして私に向かって説明する。
『これが昨日造ってみたコンクリート・ブロックです。 まだマゾミちゃんの荷物が着く前に、試しに木の枠を作って流し込んでおいてみたんです』
  そして祥子が付け加える。
『今度使うコンクリートがどの位かたく固まるのか、また、どのくらい安全に壊せるのかをまずテストしてみましょう、ということになったのよ』
『むん』とうなずく。
  玲子がいたずらっぽい微笑を浮かべて言う。
『あの中には面白いものが2つ、埋め込んであるのよ。 祐子さんは何だとお思いになる?』
『むん?』
  私は首をちょっとかしげて見せる。
『ト、マ、ト、と、う、り』
  玲子がはっきり区切った発音で答を言う。 孝夫が付け加える。
『つまり、コンクリートを壊すとき、トマトや瓜が無事なくらい穏やかに壊せれば、人が入っているコンクリートを壊すときも安全だろう、ということになったんです』
  なるほどと思って、また、『むん』とうなずく。
  皆が立っていって、ブロックに触ってみる。 美由紀も後ろ手のままの手でさわっている。
  私も触ってみる。 普通のコンクリートの打ちっぱなしの面と同じ感じで、固くてざらざらしている。 角を指でぐっと押してみる。 細かい屑が指に付くが、本体はびくともしない。 祥子も指で押してみて言う。
『かたく固まってるわね。 指で押した位ではびくともしないわね』
『ええ、それは充分な強度があります』
『それで、実際にどのくらいの時間で固まったの?』
  皆が関心を持って孝夫の顔を見る。
『そうですね。 コンクリートを流し込んでから1時間くらいした時にちょっと指で強く押してみたんですけど、その時はまだ少しへこみました。 それがこのへこみです』
  孝夫が上面の一カ所を指差す。 見るとそこに、わずかにへこんだ指の跡が付いている。
『そして、それからまた1時間たった時にもう一度、指で押してみたんですけど、その時はもう全然受け付けませんでした。 ですから効能書き通り、2時間たてば充分な強度が得られる、と考えていいと思います』
『それはいいわね』
  祥子が嬉しそうな顔をする。
『それから、セメントを水に溶かしてペーハーを測ってみましたら、7.7でした。 アルカリ性も案外弱く、これなら肌に対する悪影響もほとんど考えなくてもいいんじゃないですかね』
『ますますいいわね。 すると後は、安全に壊せるかどうかだけね。 さっそく試してみましょう』
  祥子は大分はしゃいでいる。
  さっそく床に新聞紙3~4枚を拡げて敷き、その上に50センチ四方位の広さの木の台を置く。 そして孝夫が隅からタガネと金槌を持ってくる。 コンクリート・ブロックを板の上に移す。 皆が周りに集まる。
  孝夫がブロックの角近くにタガネを当てて、金槌でコツコツと軽く叩く。 一辺が2センチばかりの大きさの三角錐の塊がぽろりと割れて落ちる。 割れ口には直径1センチほどの大きさの白い塊が2つばかり浮き出している。
『うまく割れるわね』
『そうですね。 案外、楽に割れますね』
  次にタガネを少し奥に当てて、金槌でコツコツと叩く。 さっとコンクリートの面にひびが入る。 もう一度叩く。 かなり大きな塊がぽっくりとはがれる。 はがれた面にはさっきもあった白い小さな塊が一面に散りばめられており、本体の方には赤いトマトが小さく顔を出している。 皮は破れてはいないようである。
『あ、うまくいった』
  邦也が歓声を上げる。
  次に今度は横の面にタガネを当てて、軽くコツコツと叩く。 さっきの隣りで一つ塊がはがれて、トマトが3分の1ほど顔を出す。 また違った面から試みる。 また隣りの面がはがれて、トマトは結局、半分以上がブロックの外に出る。 孝夫が慎重にトマトをひっぱる。 まだ取れない。 もう一度、タガネをあてて一塊りをはがしてから、トマトを慎重にひっぱる。 すっぽり抜ける。
『あ、抜けた』
  皆が歓声を上げて拍手する。
『この位に軽く叩いて順々にはがしていけるのなら、大きなブロックを作っても、かなり安全に壊すことが出来そうですね』と孝夫がいう。
『それはよかったわ』と祥子。 そしてトマトを手にとって見て言う。
『それに、トマトの皮には殆ど傷もついていないし』
『ええ。 タガネがトマトに触れる前にコンクリートが割れてくれてますから』
『でも』と邦也がいう。 『あんまり簡単に割れ過ぎると、大きなブロックをつくるのには、少し補強が必要じゃないかな』
『そうですね。 縁の方に少し鉄筋でも入れておかないと、持ち運びも出来ないかも知れませんね』
『でも鉄筋なんか入れたら、今度は安全に壊せなくならないかしら』と美由紀が心配する。
『まあ、それは、どの辺にどの位の間隔で鉄筋を入れるかに依るでしょうけど、適当に丈夫でしかも壊し易いように工夫することは出来ると思います』
  そして最後に祥子が言う。
『とにかくこれで、コンクリートを壊す問題も解決したようなものね。 もう、何時、プレイに入っても大丈夫よ。 よかったわね、祐子さん』
  祥子は大分はしゃいでいる。 私もつられて思わず笑顔を見せてうなずく。
『むん』
  横で玲子が感心した顔をする。
『祐子さんって、ほんとにすごい方ですわね。 ご自分が身体をコンクリートで固められるというのに、あんなに嬉しそうな顔をなさるんですもの』
  いつもなら『まあね』とぐらい応えるところだが、今日はそれもならず、ただにやにや笑っておく。
  コンクリート談義が一通り終わったところで、改めて孝夫が言う。
『それじゃ、残りも割って、瓜を取り出しましょう』
  孝夫が今度は残りのブロックの中央に近い所にタガネをあてて、金槌でコツコツと叩く。 ちょっとひびが入る。 ひびの線の延長上にタガネをあてて、またコツコツと叩く。 そこを中心にまたひびが入る。 さらにその線上で、最初の点の反対側にタガネをあてて、同じことを繰り返す。
  ひびに沿ってパクっと割れ目が出来る。 両手の指で割れ目を開くようにする。 ブロックがほとんど真っ二つに割れ、その一方の面に瓜がついて盛り上っている。
  孝夫はもう一度タガネをあてて叩き、かなり大きなコンクリートの破片をはがして、瓜をブロックから離す。 瓜の皮にも傷はほとんどついてない。
『うまくいった』
  みながまた拍手する。 特に祥子がさも嬉しそうな顔をして言う。
『さあ、この、果物を使った最初のテストで、このセメントがほとんど理想的な性質を持っていることが判ったわね。 あとは実際に人を使ったテストをするだけね』

5.2 足首でのテスト

第5章 湖畔での一日
05 /24 2017


  トマトと瓜でのテストがうまくいく。 祥子が言う。
『それではコンクリートがうまく固まって、しかも安全に壊すことも出来そうだって判ったから、いよいよ祐子さんでテストを始めるわね。 まず、予備的テストとして足をコンクリートで固めてみようと思うけど』
『そうですね』と孝夫。
  私も『やっぱり予想通り、足からだ』と思う。
『ね?、祐子さんもいいわね?』
『むん』
  さっそくに祥子が指示を始める。
『それじゃ、孝夫と邦也さんはさっそくコンクリートの用意をして下さらない?』
『はい』
『それから祐子さんは、まずおトイレに行ってきてから、今はいてるパンティ・ストッキングを脱いで脚は裸にして、これをはいて来てちょうだい』
  祥子はまだ下してない新しいこげ茶色の長靴下を一足差し出す。 かなり厚手の生地のものである。 また『むん』とうなずいて受け取る。
『じゃ、みんな始めて』
『はい』
  孝夫と邦也が部屋から出ていく。 私も長靴下を手に部屋を出る。
  まずトイレに行く。 2枚のパンティ・ストッキング、タイツ、ズロース、生理用パンティを脱ぎ、Pセットもはずして、出るものを出来るだけ出す。 考えたら今朝はまだトイレをしてなかったので、かなりの量の尿と少しの便が出る。
  またPセットをし、新しい生理用ナプキンをアヌスに当てて生理用パンティをはき、黒の厚手のズロースをはく。 そして今度はタイツなどははかずに、祥子から渡された長靴下をはく。 靴下は膝の上までくるが、その上はズロースまで何も覆ってないので、太腿の辺がすうすうする。
  スカートももとのように直し、ちょっと自分の部屋に寄って脱いだタイツなどをバッグにしまってから、食堂に戻る。
  食堂ではもうテーブルが横に動かされ、床に2メートル四方ほどの防水性の厚手のシートが敷いてある。 そして孝夫と邦也の2人が、その上に置かれた広さ60×50センチ、深さが20センチほどの金属製のパッドの中に砂とセメントを入れて、シャベルでかき混ぜている。 横には砂の入ったバケツと、差し渡し1センチほどの形が定まらぬ白い塊が沢山入った容器と、さらに水の入ったバケツとが置いてある。
  祥子が横で見ていて、感心した顔をする。
『2人ともずいぶん手付きがいいわね』
  孝夫が手をちょっと休めて、顔を上げて応える。
『ええ、工業デザイン科だと、実習でコンクリートで物を造ることもやらされるものですから』
  そして容器から両手に一杯、白い塊をすくい上げてパッドの中に加え、また2人で混ぜ始める。
  玲子が訊く。
『その白い砂利みたいなのは何なの?』
『うん、これはね』
  孝夫はその一つをつまんで玲子に渡し、説明を加える。
『これは砂利の代りに使うプラスチックの骨材。 とても軽くて、しかも割に丈夫で扱い易いので、この頃あちこちで使われている。 ただ値段が高いので一般の工事にはあまり向いてないけどね』
  邦也が水を加える。 孝夫と2人でシャベルで練り始める。 そして今度は祥子が質問する。
『とても軽いって、それ、どの位軽いのかしら』
  また孝夫が手を休めて答える。
『ええ、そうですね。 これは比重が 0.7 だそうですから、砂利の3分の1以下ですね。 ですからこれをうまく使うと、水に浮くコンクリートも作れるそうです』
『え、水に浮くコンクリート?』
  祥子もびっくりしたように声を上げる。
『ええ、そうです。 でも実際に物を造るときには、固まったコンクリートの比重が 1.2 以下に収まったら満足しないといけないでしょうね。 それに値段の方は砂利の5~6倍はしますし』
『あたし達の場合は量が大したことないから、値段の方は問題ないけど』
『まあ、そうですね』
  孝夫もうなずいて、また顔を戻して手を動かし始める。
  私もうなずきながら、横で生コンクリートの出来上るのを眺めている。 もうすぐ、あのコンクリートで私の足が固められるんだ、と思うと、軽い興奮を覚える。
  少しして、それまで2人の作業を興味深げに見ていた祥子が、やおら私の方に向く。
『それじゃ、あたし達も準備をはじめてましょうか』
  私も『もうそろそろ』と思っていた矢先だったので、すぐに同意する。
『むん』
『じゃ、まず、祐子さんはここに座って』
『むん』
  祥子が指差した椅子に座る。 祥子は荒削りの板で作った四角い木の箱を自分でもってきて、私の前に置いく。 大きさは、縦、横、深さが共に30センチほどのものである。
『ちょっと足を入れてみて』
  足を入れる。 底は足の周りにゆったりとした隙間が出来、深さはすねの中程まである。
『ちょうどいいわね。 さすがは孝夫はうまいわね』と祥子が誉める。
『いや、その大きさなら誰でも出来ますよ』と孝夫。
  生コンクリートが出来上がる。
『ほんとは自由な足がコンクリートに固められて動かなくなる所が面白いんでしょうけど、動かせる足をじっと動かさないでいるのは却って大変でしょうから、縛って動かないようにしといてあげるわね』
『むん』
『じゃ、足を一度、箱の外に出して下さらない?』
『むん』
  ちょっと右に向きを変えて両足を箱の外に出す。 祥子は手早く両足首を縛り合せる。 手を椅子の座面の両脇について体を支え、体の向きを元に戻して、縛り合された足を箱の中に入れる。
『それから、体が動くと足をじっとさせておくのが苦労でしょうから、体も固定しておくわね』
  案の定、と思ってまたうなずく。
『じゃ、手を後ろに回して』
  両手を椅子の背もたれの後ろに回す。 祥子は手早く両手首を縛り合せ、背もたれの縦の棒に縛り付け、その先をぐるっと前に回して、腹を2重に巻き締めて、また後ろで結び合せる。 脇の下に紐を通して胸を背もたれに縛り付ける。 両膝も縛り合せ、椅子の座面に縛り付ける。 そして
『これで大体、動かないわね』と笑う。
『むん』とうなずく。
『でも、無理に動かせばまだ少しは動くでしょうけど、好い子だから固まるまでは動かしちゃ駄目よ』
  祥子の子供でもあやすように言う言葉に、皆がどっと笑う。 私も笑いながら、また『むん』とうなずく。 孝夫が箱の内側一面に新聞紙を貼り付ける。
『それじゃ、いよいよコンクリートを入れるわね』
『むん』
『じゃ、お願い』
『うん』、『はい』
  邦也がスコップで生コンクリートをすくって箱に入れる。 足がひんやりする。 祥子がちょっと椅子を後ろに傾け、少し足を上げさせる。 孝夫がこてで足の裏の下に生コンクリートを丁寧に押し込む。 椅子が元に戻される。 足の裏にもひんやりした、軟らかい生コンクリートを感じる。
  邦也がどんどん生コンクリートを入れていき、孝夫がそれを隙間が出来ないように押し込んでいく。  2分ほどで箱が9分目ほど埋まり、用意した生コンクリートが終りになる。 孝夫がこてで生コンクリートの表面を平にならす。 美由紀も玲子も穏やかな顔をして、黙って孝夫の作業を見ている。 これなら危険はないとして安心しているのだろう。 私は少し水で濡れたようになっている生コンクリートの表面を見詰める。
  やがて孝夫が腰を伸ばして立ち上がる。
『ああ、出来上がりね』と祥子が嬉しそうに言う。
  孝夫と邦也が、タガネ、金槌、スコップ、こてなどの道具を部屋の隅に片付ける。



  皆がまたテーブルの周りの椅子に座る。 私はテーブルから1メートルばかり離れて皆の方に向いて座っている。 そしてすねの中程から下にひんやりした生コンクリートを感じ、それが固まりつつあることを意識している。
『さて、これでコンクリートは何時頃に固まるのかしら』と祥子が言う。
『そうですね。 今、9時ですから、11時頃には完全に固まっているでしょうね』と孝夫。
『どんな風になるかが楽しみね』
  祥子はいかにも待ち遠しいという顔をする。 しかし、それにはあまり同調するものもなく、会話が途切れる。
  その空気を破るかのように、玲子が関連した別の話題を持ち出す。
『あの、こういう風に足をコンクリートで固める話は、よくアメリカの漫画に出てきますわね』
『うん、そうだね』と邦也が同調する。
『ふーん、どういう場面で?』と孝夫。
『うん、何でもね』と邦也が受け、博識な所を披露する。 『ギャングが裏切り者をリンチするのに、足をコンクリートで固めて河や海に放り込むんだそうだ。 もっとも漫画に出てくるのは、臭くよどんだ河に放り込まれる男が自分の鼻をつまんでいるとか、コンクリートで固められた足の指の先がかゆくてどうしようもないから何とかしてくれって言ってるとか、とぼけたものが多いけどね』
『それは、それは』
  一瞬、笑いがわき起こる。 しかし、続いて美由紀が後ろ手のまま、肩をすくめて言う。
『でも考えてみると、それってとても怖い話ね』
『そうね』と祥子もいう。 『まあ、裏切り者に対する見せしめの要素が強いんでしょうけど、コンクリートが段々に固まってきて、それが完全に固まった時が死刑執行への準備完了となるわけだから、される者にとっては心理的にもとても厳しいリンチだわね』
『そうだね。 プレイじゃないんだからね』と邦也も深刻な顔をする。 私もぞくぞくっとする。
  そこでまた玲子が言う。
『中にはもっととぼけたのもありますわよ。 御主人が嫌になった奥さんをだまして、足をコンクリトで固めてボートで海の上に連れ出したのはいいけど、急に気が変って一生懸命謝ってるとか』
  皆がどっと笑う。 またテーブルの空気が明るくなる。 私は玲子が場所の雰囲気を明るくする才能に富んでいることにまた感心する。 恐らくは天性のものであろう。
  会話が一区切つき、改めて孝夫が皆の顔を見回して問いを出す。
『さて、これからどうします?』
『そうね』と祥子。 『これからコンクリートが固まるまで、まだ1時間半以上あるわね。 その間、何もしないで待つのって退屈ね。 何をしましょうか』
  そこで孝夫が提案する。
『さっきもちょっと言いましたけど、せっかく高原の湖に来たんですから、少し近くを散歩でもしませんか?』
『それもいいわね』と祥子。
『でも、それは』と美由紀がいう。 『祐子さんがご一緒できないからお気の毒よ』
『まあ、それはそうだけど』 と祥子。 そして改めて言う。
『でもね。 祐子さんは今は離れることの出来ない大事なお仕事の最中だし、それに後でご案内してもいいから、あたし達はあたし達だけで、まずは一度、散歩に行ってこない?』
  また、邦也が 『うん、いいね』 と真っ先に賛成する。 玲子も 『そうね』 というようにうなずく。 美由紀も 『仕方ないわ』 というような顔をしてうなずく。
  改めて祥子が私に告げる。
『と言うわけで、あたし達はちょっとお散歩に行ってきますから、おとなしくお留守番しててね』
『むん』
『そうね。 なまじっか気が散るといけないから、目も蓋をしておいてあげましょうか』
『むん』
『じゃ、玲子、またお願いするわ』
『はい』
  玲子はまた、例のコンタクト・レンズを洗浄液に浸して持ってくる。 そして『じゃ、右からね』と断って、左手の指でまぶたを押さえ、手早く右の眼にレンズをはめる。 つづいて左の眼にもレンズをはめる。 まばたきしてみる。 視界が一面の形のない茶褐色の世界になる。
『それじゃ、いいわね?。 行ってくるわよ』と祥子の声。 また、
『むん』とうなずく。
  皆が出ていく気配があって、部屋の扉がパタンと閉まる。 それっきりあたりが静かになる。
  眼をつぶる。 今まで気づかなかった壁の時計の秒針の、1秒毎にカチ、カチ、と進む音がしきりに耳につく。 しばらく忘れていた、脚のすねの中程から下が埋まっている感じも、改めてよみがえってくる。
  腰を動かしてみる。 少し動く。 脚も動かしてみたい誘惑にかられるが、じっと我慢する。 今はだんだんにコンクリートが固まりつつあるのだ。 いやもう簡単には足が動かないまで固まっているかもしれない。 しかし、うっかり脚を動かしてコンクリートと足との間に隙間でも出来たら、プレイの面白味が半減する。 そう思って出来るだけ動かないようにしている。
  気が付くと、さっきまで冷たかったコンクリートが大分温かくなっている。 足のぬくみでコンクリートが暖まったのかな、と思う。 そして刺激がないままに眠くなる。 いつしか首を前に垂れて眠り込んでしまう。



  ふと物音に目が覚める。 足が大分温かい。 単なるぬくみではないようである。 前に垂れていた首をまっすぐに戻して耳をすませる。 まだ何の気配もない。
  少しして扉が開く気配がある。 『あれ?』と思う。 つづいて人が何人かが入ってきて私の周りに群がる。 正面で『ただいま』と祥子の声。 見えない眼を開いて、『むん』とうなずく。
『もう固まったかしら』
  足下で何かしてる。 そして
『もう、すっかり固まってるわよ』という祥子の嬉しそうな声が響く。
『うん、ほんとだ』と邦也。
  足に力を入れてみる。 ずっしりした重さを感じて、少しも動かない。 『ああ、固まっちゃった』と何故かほっとする。
  祥子が『じゃ、コンタクト・レンズは外してあげて』と指示し、玲子が『はい』と応える。 まぶたに柔らかい指が触れて、右の眼のレンズが外される。 玲子がにっこり笑い掛けてくる。 私も右眼だけでにっこりする。 つづいて左眼のレンズも外される。
  周りを見ると、5人全員が私の周囲に集まっている。 美由紀はまだ後ろ手のままでいる。
『もう、完全に固まりましたね』と孝夫が私に言う。 『むん』とうなずく。 首を回して壁の時計を見る。 11時5分過ぎである。
『それじゃ、枠を外しましょう』
『うん、そうだね。 壊さないで、そのままうまく外れるかな』
『そうですね。 やってみましょうか』
  孝夫が膝の紐が解き、少し持ち上げた膝の下に邦也が丁度横にあった直径10センチばかりの木の丸棒を差し込む。 足が浮く。 孝夫が木の枠のへりを木槌で軽く叩いて回る。 木の箱がすっぽり外れて下に落ちる。
『あ、うまくいった』
  手の自由な4人がパチパチ手を叩く。 美由紀も笑って見ている。
『早速、紐を解いてあげるわね』と言って、祥子が手早く私の胸を椅子にくくり付けていた紐を解く。 そして腹の紐を解き、最後に両手首を縛り合せていた紐を解く。
  私は一度、手を両側に伸ばして伸びをする。 そしてさっそく腰を曲げて、両足のくるぶしの上の辺から下をすっかり固めているコンクリートの表面を指でさわってみる。 すっかり固まっている。
  皆が見守る中で立ち上がってみる。 足が全く動かないので、バランスがとれず、よろよろっとしてまた椅子に座る。 『あぶないっ』と美由紀が声を上げる。
  その方へ『大丈夫だよ』の積もりでうなずいてみせてから、もう一度、今度は慎重にゆっくり立ち上がる。 今度はうまく立ち上がれる。 まっすぐ上に一度跳んでみる。 しかし、足は全く持ち上がらない。 孝夫が笑いながら言う。
『これだとコンクリートだけで20キロ近くありますから、両足跳びはちょっと無理ですよ』
『せっかく台座も出来上ったんだから、またマゾミちゃんにして、ちょっと飾ってみない?』と祥子がいう。
『いいね』とまた真っ先に邦也が賛成する。 皆が笑いながらうなずく。
『それじゃ、さっそく始めるわね』
  祥子はまず、部屋の隅の段ボール箱から例の首の支えを持ってくる。 そして私のブラウスを脱がせ、下着の上から背中に支えの柄の部分を当て、かつらを取って頭に合せてから、胸に2本のベルトで固定する。 そして頭もベルトで支えに固定してから、かつらを戻す。 そしてまたブラウスを着せ、高手小手に縛り上げる。 私は体中の力をすっかり抜いて、彼女のなすがままに任せる。
  玲子が少し大きい手鏡をかざして見せてくれる。 鏡の中では、可愛い女の子が高手小手に縛られて、うっとりした顔をしている。 高手小手の紐の間から出ている胸のぷくっとした膨らみがいとおしい。 また、半開きの口からのぞいて見える前歯の間に相当する壁の小さな孔が印象的である。
  邦也が1メートル半ばかりの長さで太さ2センチばかりの鉄パイプを持ってくる。 祥子は邦也と協力してそのパイプを私の背中に当て、膝下、太腿、腰、胸、首と順にそのパイプにくくりつける。 これで体が前後にも左右にも曲がらなくなる。
『最後にまたコンタクト・レンズをお願い』と祥子がいう。 玲子が『はい』と応えて、私の両眼に茶褐色、不透明のコンタクト・レンズをはめてくれる。
『これで出来上がりね。 じゃ、正面に飾りましょう』
  2~3人の手が私の体にかかり、少し横に傾けて運ばれて、またまっすぐに立てられる。  そして皆がテーブルの周りの椅子に腰を下ろした気配がある。
『いいね。 台座付きのお人形というのも』
『そうね。 案外、ぴったりしてるわね』
『でも、どうせお人形として飾るなら、最初から台座に柱も立てておくとよっかったですね』
『そうね。 でも最初はコンクリートのテストだけの積りっだったから、そこまでは気はつかなかったわ』
  私は眼をぼんやり開いて、皆が勝手なことを言ってる声のする方角をそれとはなしに眺めている。 もちろん、視界は一面の茶褐色の世界で、形あるものは何も見えない。

5.3 湖

第5章 湖畔での一日
05 /24 2017


  しばらくの間、皆が黙って私の方を見ている様子。 そのうちに邦也がまた、『いいね』と感嘆したような声を出す。 するとそれに誘い出されたかのように、孝夫が言う。
『もう、12時に近いですね。 このままずっとこうしていても仕方ないと思いますけど、次はどうします?』
 そして『そうね』と祥子の声。 『今日は朝が少し遅かったから、お昼の食事も少し遅らせたほうがいいわね。 それじゃ、お人形さんを飾るのはこの位にして、さっきちょっと言ってた通り、次は祐子さんをお散歩に連れ出して、あの佳い景色をお見せしましょうか』
『そうですね。 それがいいですね』
  この会話を聞いていて、私は一瞬、『ああ、それじゃ一度、コンクリートの台座を壊す積りかな』と考える。 しかし、続いて祥子が指示を出す。
『それじゃ、さっそく出かける準備して』
『はい』
  それを聞いて、『あれ?、台座を壊すにしてはちょっと変だな』と思う。 とにかく孝夫は出ていった様子。 そして、
『じゃ、また、レンズを外しますわよ』
という玲子の声がして、右眼のレンズが外される。 ついで左眼のレンズも外される。 玲子と顔を見合せてにっこりする。
  祥子と邦也が紐を解く。 膝下から首まですっかり紐が解かれて、パイプが外される。 しかし、頭の支えと高手小手の紐はそのまま残される。
  ところへ孝夫が車椅子を押して帰ってくる。 『あれっ』と思う。
『ああ、いい車椅子ね。 これなら祐子さんを連れていけるわね』と祥子。
  私も『ああ、そうか。 この格好のままで散歩に連れ出す気か』と気がつく。
  ゆったりしたガウンが着せられる。 そして孝夫が私の体をかかえ、邦也が足を持って、そっと車椅子に座らせられる。 足台のペタルが倒され、台座が静かにその上に載る。 革のバンドで腰の辺を車椅子に固定される。
  ついで、膝から足にやや大きめの湯上がりタオルを掛けて台座を隠す。 胸の紐はすでにガウンで覆い隠されている。
『ああ、うまくいったわ。 これで大丈夫ね』
『はい』
『じゃ、出発しましょう』
  孝夫が車椅子をゆっくり押し始める。 皆が後につづく。
  食堂を出て廊下をたどり、玄関に出る。 段差の所は孝夫と邦也が車椅子を軽く持ち上げて通過する。
  玄関から外に出る。 高原の秋の気持よいひんやりした空気を顔の肌で感じる。 この玄関前はかなり広い庭で、かんばや杉の木が沢山立ち並んで林をつくっている。 車椅子は門への道をまっすぐ進んでいく。 よく踏み固められた土の道で、車椅子の振動もほとんどない。
  20メートルほどで門を出る。 門の前には幅10メートルばかりの砂利道が走っている。 車椅子ががたぴし揺れる。 その道を真横に横切って、また幅1メートル余りの細い土の道に入る。 周りはまた林である。
『これが湖への近道なんです』と孝夫が説明する。
『むん』とうなずく。 ただし、首はほとんど曲がらない。
  林の中を100メートル余り行った所で急に目の前が開け、湖が拡がる。 湖の向かうには少し黄葉しかかった美しい山並みが連なっている。 思わず息を飲む。
『いいでしょう』と祥子がいう。 また、『むん』とうなずく。
  車椅子は湖岸に出て、右に曲がる。 道は相変らず、幅が1メートル半ばかりで、自動車は通れそうもない。
『この辺は車が入ってこないので、とても静かです』と孝夫が説明する。
  美由紀と玲子は連れだって先の方に行く。 玲子はショルダーバッグを肩に掛けているが、美由紀はまたケープをはおっているだけである。 ケープの下はまた後ろ手にくくられてるんだろうな、と推測する。 祥子と邦也は車椅子の後ろに付いてきている様子であるが、首を回せないので、後ろは確認するすべがない。
  前方から初老の男女の2人連れがやってくる。 人の善いご夫婦、といった感じである。 私は口枷が見付からないように、少し無理して唇を閉じる。
  すれ違う時に2人が道を譲って立ち止まり、男の方が
『やあ、今日は。 しばらくでした』
と挨拶する。 孝夫も車椅子を止めて、挨拶を返す。 どうやら孝夫の顔馴じみらしい。
  男が私を見て訊く。
『この女の方は、お身体がどこかお悪いんですか?』
  私はすっかり恥ずかしくなって身体をこわばらせる。 顔を伏せたくても頭の支えがあるのでうつむくことも出来ず、ただ目だけを伏せる。
『ええ、ちょっと』と孝夫が答える。 そして後から追い付いた祥子が説明を加える。
『ちょっと身体が麻痺する病気で、口が不自由で、首も自由には回らないんですの』
  女が心から同情するように小声で言う。
『まあ、お若いのにお気の毒に』
  私はますますかっとなる。 男も
『それは大変ですね』
と言って、もう一度、私を見る。 私はもうどうにもならない気持になり、目をつぶって身体を精一杯こわばらせる。
  しかし、試練は終わる。 とうやく2人は『じゃ、お大事に』と言って、通り過ぎた様子。 ほっとして目を開ける。 また孝夫が車椅子を押して歩き始める。
  しばらく進んで、もうあの2人から遠く離れたと思われる頃、孝夫が横の祥子に話しかける。
『思いもかけず知ってる人に出会って、ちょっとびっくりしましたね。 いつもは、この辺で人に会うことは殆どないんですけど』
『どこの方?』
『ええ、あの、うちの寮から100メートルばかり離れた所に別荘を持ってる人達なんです。 時々、顔を合せて話をする位の間柄ですけど』
『でも、見とがめられなくてよかったわね。 急に脳性麻痺の病人なんかが現れて、変に思わなかったかしら』
『そうですね。 でもその方はこちらは会社の寮ですから、僕の家族だけではなくて色々な人が来て当然で、特別に変には思わなかったでしょう』
『それならいいわね』
  そして追い付いてきた邦也が笑いながら言う。
『でも、とうとう、祐子さんを脳性麻痺にしてしまったね』
  祥子はすまして応える。
『この場合はしょうがないわよ。 これも羞恥責めの一つの形よ』



  さらにしばらく進む。 前方に湖に突き出した桟橋が見えてくる。 もう美由紀と玲子は桟橋に立って我々を待っている。
  玲子が手を振る。 こちらからも祥子が手を振って応える。
  ほどなく桟橋に着く。
『お待ち遠さま』と祥子が声を掛ける。
『いいえ、どういたしまして』
  玲子はにっこり笑う。 その横で、ガウン姿で手を見せてない美由紀が、何時の間にか、顔に口と鼻とを覆うやや大き目のガーゼのマスクを装着して、眼だけで笑っている。
『ああ、そのマスク、来る途中で玲子が掛けてあげたのね。 下は猿ぐつわになっているの?』
『ええ、ちょっと小布れを詰めて、布の粘着テープで蓋してあります。 ショルダーバッグに丁度入ってたものですから』
『あ、そう。 玲子もすっかり美由紀の喜ばせ方を憶えたようね』
『ええ』
  祥子と玲子は顔を見合わせて笑う。
  桟橋は長さ5メートル、幅2メートルほどの簡単なものである。 そしてその先端の先に5人乗りほどのボートが一つつないである。 また、桟橋の付け根から先は道は幅が3メートルばかりに拡がり、車が通った跡がある。 見える限りにおいて人影は全くなく、あたりはしーんと静まりかえっている。
  孝夫が車椅子を押して桟橋の中程まで来て止め、車輪止めを掛ける。
『ちょっと車椅子から下ろしてあげましょうよ』と祥子が言う。
『はい』
  孝夫は革のバンドをはずし、邦也と2人で私を車椅子から下ろして、湖に向かせて立たせてくれる。 美しい湖の景色にみとれる。
『せっかくだから、また写真を撮っておきましょうか』
  孝夫が肩に掛けてきたケースからカメラを取り出し、桟橋の先端近くで片膝をついて私の写真を1枚撮る。
『丁度、人影もないから、どうせならガウンを脱がせて撮りましょうか』
  そう言って、祥子が私のガウンを脱がせる。
  今や私は女の子姿で、上半身の高手小手の縛り紐もむき出しに、足をコンクリート・ブロックに埋め込まれて、広々とした視界の湖の岸辺に突き出た桟橋に、突っ立っていることになる。 急に恥ずかしくなる。 我々の仲間以外の人に見られたらどうしよう、と思うと身体がこわばる。 そんなことにはおかまいなく、孝夫が方角を変えて、2~3枚、写真を撮る。
  そこで祥子が注文する。
『孝夫、ちょっとカメラを貸して。 それから祐子さんをもっと桟橋の先の方に、こちらに向かせて立たせて下さらない?。 そして孝夫と邦也さんがその両側に並んで。 記念写真を撮るから』
『ああ、ギャングのリンチの図ですか』
  孝夫は笑いながら祥子にカメラを渡し、邦也と2人で私を桟橋の先の方に運ぶ。 そして岸の方に向いて立たせ、2人が両側に立って私に手を掛けてる形のポーズをとる。 祥子はカメラを構えて2枚ばかり写真を撮る。
  また祥子が注文する。
『さあ、今度は祐子さんを湖の方に向かせて、2人で持ち上げて放り込むような格好をしてみせて』
『いよいよ真に迫る場面ですね』と孝夫が笑う。
『そうだね。 面白いね』と言いながらも、邦也は少し興奮気味である。
  2人は両側から手を出して私を持ち上げ、膝と背中でかかえて湖の方に向きを変え、桟橋の先端まで進む。 そして私の身体をゆっくりと湖の上に突き出すようにして、いにも放り込むような格好をする。 孝夫は平静であるが、邦也は興奮して少し震えている。 実際に桟橋の先に出ているのは足首から先のコンクリートのブロックだけで身体は桟橋の内側にあるが、どっちかの手がうっかり滑ってそのまま下に落とされても、足首のブロックに引きずられて体がずるずると桟橋の上を滑って、結局は湖に引き込まれてしまいそうである。 少しひやひやする。 また2回ばかりシャッターの切れる音がする。
  後ろで『もう、いいわよ』と祥子の声が聞こえる。
『次はそのまま湖に放り込んで、と言うんじゃないでしょうね』と孝夫が後ろを振り向いて笑いながら言う。 私はぞくぞくっとする。
『それもやってみたいけど、今日は止めとくわ』と祥子の笑いながらの声がする。
  孝夫と邦也の2人は私の身体を後ろにひっこめて、また岸の方に向きを変えて下ろす。 私はコンクリートの台座に足を埋め込んだまま、まっすぐに立つ。
『さあ、これで証拠写真が出来たわよ。 2人のギャングが妙齢の美しいお嬢さんをリンチに掛けて、湖に沈めようとしている所のね』と言って祥子が笑う。
『そうですね。 祥子姐御のご命令によりまして』と孝夫がすましていう。 皆がどっと笑う。
  笑いが収まったとき、『こういう芝居がかったプレイって、僕達はやったことがないですね』と孝夫がいう。
『そうね。 やりかたによっては、お芝居を取り入れるのも面白いかもね』
  祥子がうなずく。
  それから、邦也がぶら提げてきた三脚を拡げ、孝夫がそれにカメラをセットして、私を中心に6人全員の入った記念写真を撮る。
  美由紀が右手の遠くの方を見て、『あれっ』という顔をする。 皆がそっちを向く。
『あ、人がくる』と邦也。
  私は首を回せないので見ることが出来ないが、またひどく恥ずかしくなり、身体をこわばらせる。
  祥子が何気ない様子で車椅子の上に置いてあったガウンをとって、私に着せ掛ける。 そして言う。
『そうね。 もう、そろそろ帰りましょうか』
『ええ、それがいいですね』
  孝夫は邦也と2人でまた私をかかえ上げ、そっと車椅子に戻す。 膝から足へと湯上がりタオルを掛けて台座を隠す。 そして孝夫は車止めを外し、そのままの向きで車椅子をゆっくりバックさせ始める。 車椅子ががたがたと揺れる。
『気をつけてよ。 万が一、その格好のまま水に落したら、本物のリンチになっちゃうから』
と祥子が声を掛ける。 私はまたぞくぞくっとする。 孝夫は『はい』と応えて、ゆっくり慎重にバックさせる。
  岸に戻る。 そしてまた、さっき来た道を帰っていく。
  しばらくして、さっき見付けた人影に行き会う。 若い男女の二人連れである。 すれ違って先方が車椅子に道を譲るとき、胡散臭そうに私をじろじろ見る。 私はまた身体をこわばらせる。 どちらも何も言わずにすれ違う。 ほっとする。 そのまま無事に寮の門に着く。



  門から庭に入るなり、祥子が言う。
『それじゃ、さっそく一度、台座を外してみましょう』
  孝夫は『はい』と応え、付け加える。
『ただ、部屋の中だとコンクリートの破片が飛び散って面倒ですから、外すのは裏庭でしましょうか』
  皆が同意する。
  家に沿って裏に回る。 家の裏手に、昨夜、中廊下の端の扉を開けてちょっと見た、少し開けた所がある。 周りは深い森で、外からは全く見えない。 なるほど祥子の気に入りそうな場所である。
  邦也が孝夫から鍵を受け取り、裏口から入って椅子を一つもってくる。 また孝夫と邦也とにかかえ上げられ、一度立たされてガウンを脱がされてから、椅子に座らせられる。 腰を椅子の背もたれに縛りつけられる。 でも腰を曲げて体を前に倒せば足下まで見ることが出来る。 孝夫が家に入っていって、タガネと金槌を持って出てくる。
  孝夫が私の足下に膝をついて、タガネを台座の角近くにに当てる。 皆がその周りに集まる。 孝夫が私の顔を見て言う。
『それじゃ始めますよ』
『むん』
  孝夫が金槌でタガネの頭を叩く。 足にカーンと響く。 思わず、ぎくっとする。 またカーンと叩く。 ぱくっと1辺が5センチほどの三角錐形の破片が割れて落ちる。
『わあ』と皆が声を出して拍手する。
  孝夫がまたその横にタガネを当てる。 私は眼をつぶる。 足からカンカンと響いてくる。 また、皆が『わあ』と声をあげる。
  何回かそれをくり返す。 皆がもう声を出さなくなる。 不意に右のくるぶしの上の辺はすうすうする。 眼を開けて足下をのぞき込む。 台座のコンクリートがもう大分小さくなっていて、孝夫が右のくるぶしの辺からコンクリートの破片をはがしている。 破片が靴下からすっぽりはがれる。
『靴下があるおかげで、うまくはがれるわね』と祥子が嬉しそうに言う。
『そうですね。 靴下をはいて貰ってコンクリートで固めるという方法は正解だったようですね』
  その後も作業がつづく。 私はまた椅子の背もたれに寄りかかって、眼をつぶって、うつらうつらしている。 高手小手の手首が背中と背もたれとの間で押されて少し痛いが、ほとんど気にならない。 足が段々すずしくなる。
  ふと眼をあけて足下をのぞき込む。 コンクリートのブロックはすっかり小さくなり、両足ともくるぶしから上がすっかり現われて、その先を残すだけとなっている。
  孝夫が右足の甲の上のコンクリートに縦にタガネを当てる。 ちょっと緊張する。 カンカンと2回、軽く金槌を打ち下ろす。 さっと割れ目が入る。 もう1回、カンと叩く。 割れ目がさっと広がる。 孝夫が金槌を下に置いて、右手で外側の破片をひっぱる。 破片がすっぽり取れて、右足の右半分が顔を出す。
『うまくいったわね』と祥子が嬉しそうに言う。
『もう、大丈夫ね』と玲子もいう。
  美由紀も何か言いたそうにガーゼのマスクを掛けた顔を動かすが、何も言わない。 さっきの玲子の言葉を思い出す。
『ああ、あのガーゼのマスクの下は猿ぐつわをしてあるって言ってたっけ』
  孝夫はなおも作業を進め、左足の左半分の破片を割り取り、ついで真ん中のコンクリートを少しづつ割り取っていって、最後に両足の間に残っていたコンクリートをぐっと下にひっぱって取り去る。 これで、まとまった破片はすっかり無くなる。 皆がパチパチと拍手する。
  孝夫はなおも前にかがんで、足首の間をごそごそいじくって、小さな破片を取り除き、きれいにする。 そして腰をのばして立ち上がる。
『大体こんなものですかね』
  そこで祥子がなた指示を出す。
『それじゃ、足首の紐も解いて』
『はい』
  孝夫はまたかがみ、足首の所でごそごそやる。 少し時間がかかる。 しかし結局、足首の紐が急にゆるんで外れる。 久しぶりで足を開いてみる。 孝夫が紐を持って立ち上がる。
『紐にコンクリートがしみ込んでいて、なかなかうまく解けませんでしたけど』と孝夫がいう。
『そうね。 でも結局は取れたんだから、それでいいわよ』と祥子がいう。
『どうしてもほどくのが難しかったら切った方がいいよ。 はさみじゃ大変だけど、ペンチなら楽に切れると思うよ』と邦也がいう。
『そうですね』
  孝夫もうなずく。
  玲子が腰の紐をほどいてくれる。 久しぶりに自分の足で立つ。 歩いてみる。 腰の辺がじーんとする。
『とにかく、大成功ね』と祥子が嬉しそうに言う。 『安全に壊せることも分ったし。 これなら、この後の本番もきっとうまくいくわね』
  私も大きくうなずく。
  皆で家に入り、また食堂に集まる。 時刻は1時半を少し過ぎている。

5.4 胸像造り

第5章 湖畔での一日
05 /24 2017


  食堂で祥子がてきぱきと指示を始める。
『それじゃ、お昼の食事を簡単につくるわね。 孝夫はその間に祐子さんの紐を解いてあげて』
  孝夫が『はい』と返事をして、私の手の紐を解き始める。
『それから、玲子は美由紀の猿ぐつわを外してあげて』
『はい』
  玲子が美由紀の白いガーゼのマスクを取る。 下には口を覆って2枚の幅広の布粘着テープが貼ってある。 玲子がテープをはがす。 美由紀は口から小布れを舌で押し出す。 玲子はティッシペーパーを手にしてその小布れをつかんで引き出し、別のティッシペーパーで口元を拭く。 美由紀がほっとした顔をして『有難う』と言う。 玲子は小布れをつつんだティッシペーパーを紙屑篭に放り込む。 そして
『手はどうしたらいいかしら』と祥子に訊く。
『ええ、手の方はそのままでいいわ。 ね、美由紀?』と祥子。
『ええ』
  美由紀はうまずく。
  私の手も自由になる。 手を伸ばして肩の凝りなどを取る。 ブラウスとかつらを脱いで、頭の支えも外しにかかる。 孝夫も手伝って支えを外してくれる。 首を回す。 首から肩にかけてじーんとする。 またブラウスとかつらを着ける。
  祥子と玲子が台所に立って何やら作り始める。 美由紀は椅子に座って、またぼんやりそれを見ている。 その横から邦也が話しかける。
『あの、美由紀さんは昨日の夜からずうっと縛られっぱなしだろう?。 腕がだるくないかい?』
『ええ、だるいわ。 でも我慢が出来ないほどじゃないわ』
『すごいな。 僕なんかはすぐ我慢できなくなってしまう。 この前の24時間の記録の時も辛かった』
  邦也はしみじみした顔をする。
  そこへ遠くから祥子の声が割り込む。
『邦也さんは、なまじっか動こうとするから辛くなるのよ。 美由紀みたいに動こうなどと思わなくなると、辛くなくなるのよ。 ね、美由紀?』
『知らないわ』
  美由紀のその少しすねたような言い方に、皆がどっと笑う。 美由紀も笑い出す。
  そうこうするうちに、『さあ、出来たわよ』と言って、祥子がサンドイッチの皿をテーブルの中央に置く。 それは竹で編んだ大きな皿で、上には紙ナプキンを敷いて、ハムや生野菜やツナをはさんだサンドイッチをうずたかく積んである。 また、玲子が紅茶のカップを並べ、皆の席の前にスプーンを置いていく。
『祐子さんも紅茶をお召し上がりになる?』と玲子がきく。
『むん』とうなずく。
  玲子は私の前にもスプーンを置き、横にストローを添える。 祥子がティーバッグを紙袋から出しながら、笑いかけてくる。
『紅茶にストローというのも妙なものだけど、しょうがないわね』
  また『むん』とうなずく。
  玲子が6つの紅茶カップにティーバッグを入れ、ポットからお湯を順々に注いでいく。 ついでティーバッグを2度ほど振って引き上げ、ミルクを加えて、祥子がそれを皆の前に配っていく。
『それじゃ、簡単だけど、いただきましょう』
  食事が始まる。
  まず角砂糖を1つ紅茶に入れ、スプーンでゆっくりかき回す。 底をすくってみて、砂糖の溶けたことを確かめる。 そのままカップを持ち上げて口につけようとして、口が開かないことに気がつき、下に置いてストローを取る。
『そのまま飲めなくてお気の毒ね。 でも我慢してね』と祥子。 また『むん』とうなずき、ストローで紅茶をすする。 何だか変な感じである。
  美由紀にはまた祥子がお給事している。 サンドイッチを小さくちぎり、美由紀の口に入れ、自分の口にも入れ、また紅茶をゆっくり飲ませたりして、とても面倒見がよい。 邦也が手を休め、口を半分開けて祥子のお給事ぶりを見ている。 祥子がそれを見付けて声を掛ける。
『邦也さん、うらやましいんでしょう。 邦也さんも後ろ手に縛って、お給事してあげればよかったわね』
『いや、結構だ』
  邦也は慌てて辞退して、目が醒めたように急にまたサンドイッチに手を出す。 皆がどっと笑う。
  食事をしながら、祥子が孝夫に念を押す。
『あの、孝夫。 注文しておいた大きいほうの箱も、もう用意できてるわね』
『ええ、昨夜のうちに作っておきました。 釘付けも簡単にしておいたので、コンクリートが固まったらすぐに分解できるようになっています』
  横で邦也が嬉しそうに言う。
『いよいよ、午後のプレイだね』
『ええ、そう』と祥子。 『今度は祐子さんを座った形でコンクリート詰めにするの。 そのために丁度いい大きさの箱を作って貰ったのよ』
  美由紀がまた心配そうな顔をする。 それを見て祥子が言う。
『美由紀、心配しなくていいわよ。 今までの経験で、うまくいくことが分っているから』
『でも』と美由紀。
『そうね。 この食事が終ったら美由紀の手の紐も解く積りでいたけど、それじゃ、当分は解かない方がよさそうね』
  そして、『美由紀もその方がいいのね』と念を押す。 美由紀が『ええ』と応える。
  邦也がけげんそうな顔をして2人のやり取りを聞いている。 それを見て祥子が
『つまりね』と解説を加える。 『美由紀はこういうプレイを見ていると、心配でじっとしていられなくなるのよ。 でも動けないようにしてもらって口も蓋しといて貰っておけば、自分が他の人の厳しいプレイによる苦悶を黙って見ている理由が出来て、自分をどうにか納得させられるって訳なの。 ね、そうよね?、美由紀』
『ええ』
  美由紀は恥ずかしそうに顔を伏せてうなずく。
『それに』と玲子がいう。 『美由紀さんには祐治さんと苦しみを共にしているという、一体感もあるんじゃないかしら』
『そうね。 そう言えば、この前の時は玲子に大分当てられたわね』
『あら、いやだ』
  玲子が美由紀のお株を奪ってそう言ってから、自分で笑い出す。 皆もどっと笑う。
『でも美由紀、ほんとにそうなの?』と祥子。
  美由紀はますます恥ずかしそうに下を向いたまま、小声で言う。
『知らないっ』
  私もぞくぞくっとする。
  食後のデザートにと櫛形に切ったオレンジを山に盛ったガラスの皿が中央に出る。 皆はそのまま口に持っていって食べている。 私は玲子が出してくれたコップに絞って入れる。 コップに半分ほどたまったところで、またストローですする。 つめたく冷えたジュースがとてもうまい。 そしてさらに、玲子が牛乳をコップに一杯、もってきてくれる。 それもストローで飲む。
『これで大分、栄養補給が出来たわね。 まだとても元気そうだから、どうにか明日の合宿終了まではもちそうね』と祥子がいう。
『むん』とうなずく。



  食事が終る。 祥子がさっそくに言い出す。
『それじゃ、さっそく午後のプレイを始めるわよ』
  私は『いよいよ』と思って、ぞくぞくっとしたものが全身を走る。
  祥子は続ける。
『午後は予定通り、祐子さんを座った姿勢でコンクリート詰めにするの。 ところでセメントはどの位残っているかしら』
『そうですね。 まだ5分の1足らずを使っただけですから、42~3キロはあるんじゃないですか?』と孝夫。
『ああ、まだそんなにあるの。 それでコンクリートを作ると、どの位の容積になるの?』
『そうですね。 セメント250キロで1立方メートル位ということですから、 0.17 立方メートルほどですか。 あの箱だと7分目ほどですけど、祐子さんの身体の容積もあるから、ほとんど一杯位になるかもしれませんね』
『なるほど。 すると肩近くまで埋まるかもしれない訳ね。 セメントは残してもしょうがないから、全部を使って、どこまで埋められるかやってみましょう』
  そして祥子は私に向かって念を押す。
『それでいいわね?、祐子さん』
『むん』
  話が一つ片づいたところで、孝夫が次の問題を提起する。
『ところで、何処でやりますか?。 今度は大分重いから、後では簡単には移動ができないと思いますし、それに生コンを練るにも場所をとりますけど』
『そうね。 その意味では、さっきの裏庭がよさそうね』と祥子。
『そうですね。 あそこなら思う存分できますね』
『ええ、そう。 あたし、昨日、あの裏庭を初めて見たときから、今日の午後のコンクリート・プレイはここでやるのがよさそうって考えていたのよ』
『なるほど、目が速いですね』
  孝夫が感心した顔をする。 私も昨夜の予想がぴったり当ったのに、にんまりする。
  横で邦也が言う。
『それで鉄筋はどうする?。 せっかく固めてたのに簡単に割れてしまっては残念だよ』
『それに』と美由紀が心配そうな顔をする。 『コンクリートが変な風に割れると、とても重いから身体が引き裂かれるようになって危険だわよ』
『そうですね。 そういうこともありますね』
  孝夫もうなずく。
『そうね。 だからこちらで壊さない限りは割れないようにしたいわね。 それにはやはり邦也さんの言う通り、鉄筋を入れるのがいいかしら』
『ええ、確かに鉄筋があればだいぶ丈夫になるし、それに鉄筋の頭を出しておけば、少し動かそうとするときに手がかりになって便利ですね』
『ええ、そう。 それじゃそうして』
『はい。 じゃ、鉄筋は後でちょっと物置を探してみます』
『ええ、お願いするわ』
  これでその話も片づく。 改めて祥子が皆を見回して言う。
『それで、打ち合せはこれで大体いいかしら』
  皆がうなずく。
『それじゃ、いよいよ実行にとりかかることにします』
  そして祥子は改めて私に向かって指示する。
『まず、祐子さんはまたトイレをすませてから、今着ているものを全部脱いで、これを着てきてちょうだい。 ただしPセットはしたままでいいわよ』
『むん』
  私は祥子の差し出すにベージュ色のものを受け取る。 みるとそれはタイツと長袖のスリーマーで、いずれもかなり厚手の生地のものである。 祥子の用意のいいのに感心する。
『それから、支度が出来たら、直接、裏庭に来てね』
『むん』
  そして私は『じゃ』のつもりで一つうなずいてみせてから、それを持って食堂を出る。
  まずトイレに行って完全に裸になり、Pセットも外してゆっくり用をすます。 この2日間ばかり、ほとんど何も入れておらず、少しとった水分も汗で出てしまっているので、ほとんど何も出ない。 またPセットをし、タイツをはき、スリーマーを着る。 これで、首から上と手首から先を除いてすっかり厚手の生地で覆われる。 ブラジャーも外してしまったので、胸に手をやっても膨らみがなくなって淋しい気がする。 でも、胸もコンクリートに埋められてしまうらしいので我慢することにする。
  部屋に戻って脱いだものをバッグの横にたたんでおいてから、裏庭に出る。
  もう、森のはずれの木の横に箱が置いてあり、その横にトタン板をおいて、その上で孝夫と邦也がセメントを砂を混合している。 その横に置いてあるバケツの一つにはなめらかな生コンクリートが入っている。 セメントと砂と水とだけで作ったモルタルらしい。 女3人は横で2人の作業をながめている。 美由紀はさっきまでの後ろ手の縛りの外に、顔の下半分にいつもの革のマスクを装着して縦と横の革バンドでしっかり留められ、眼だけをきらきらさせている。
  祥子が私の顔を見て、『ああ、準備が出来たわね』という。 軽くうなずく。
  孝夫と邦也はトタン板の上にさらに白いプラスチックの骨材と水を加え、練り返して生コンクリートをつくる。
  『さあ、出来ましたよ』
  私はまた、ぞくぞくっとする。
『それじゃまず、脚は何時もの通り、足首と太腿を縛り合せておいてくれない?』
『むん』
  私は祥子から紐を受け取り、腰を下ろして先ず右の足首と太腿をきっちりと縛り合せる。 そして次に左脚も同じように縛り合せる。 祥子の顔を見る。
『ああ、出来たわね。 それじゃ、手もうっかり抜いたりしないように留めておいてあげるわね』
『むん』
  祥子は私の後ろに回り、両手首を後ろ手にきっちり縛り合せ、その先を腰に2重に巻いてぐっと引き締めてから、また手首で留める。 そして足首を立てて腰を上げさせ、股の下に大きめの生理用ナプキンを当ててから、先程の紐の先を股の下に往復させて紐のふんどしとし、また手首に縛り付ける。 これで手首はほとんど動かず、特に上に上げることが出来なくなる。
  その間に孝夫と邦也は箱の内面に新聞紙を貼りつめ、その上にモルタルを塗っている。 そしてさらに生コンクリートを箱に入れて底をつくり、細目の鉄の棒を曲げたものを中で組んでいる。
『ちょうど手頃な鉄筋があったそうよ。 とてもうまくいきそうよ』と祥子が嬉しそうに笑っていう。 また『むん』とうなずく。
  孝夫と邦也が顔を上げて立ち上がる。
『さあ、これでこっちはすっかり準備が出来ましたから、もうそろそろ始めますか?』
『ええ、こっちもいいわ。 じゃ、始めて』
  祥子が出すゴーサインを聞いて、私はまた、ぞくぞくっとする。



  孝夫と邦也がやってきて、両側から私の膝とすねをもってかかえ上げる。 そして箱の横に一旦下ろし、今度は肩と太腿を持って一度高く持ち上げ、ゆっくり箱の中に下ろす。 脚が底に着く。 タイツを通して生コンクリートの水分が浸み込んできて、脚がひんやりする。 またぞくぞくっとする。
『この箱は、内法が70×50センチで深さも70センチですから、祐子さんなら正座しても大丈夫のように作ってあります』と孝夫が説明する。 確かに正座しても、前後左右ともに5センチほどは余裕がありそうである。
  脚を正座の少し崩れた形にして、背筋をぐっとのばす。 箱の縁がちょうど脇の下の辺にくる。 私を中に入れる時にさわって箱の内面のモルタルがはがれた場所に、孝夫がまたモルタルを加えて補修する。 そして鉄筋の位置のずれをちょっと直す。
  箱の内側には大きなUの字の形に曲げた鉄の棒が内面に沿って前後向きに2本、左右向きに2本張ってあって、その底は私の脚の下を通り、その8つの先端が小さいUの字の形に曲げられ、箱の縁の上に5センチほど頭を出している。 そして箱の深さの中程には内面に沿って水平に一周する同じ太さの鉄の棒があり、4本の棒と針金で結び合せてあって、全体の構造が崩れないようにしてある。 これだけ鉄筋が入っていて、後でコンクリートを壊すときに大丈夫かな、とちょっと心配になる。 しかし、今さら止めるという訳にもいかないし、それに口がきけないから、適切な意志表示をする手段がない。 駄目なら駄目で、そのときは皆で何とかしてくれるだろう、と覚悟を決める。
『じゃ、生コンを入れますよ』と孝夫は声を掛けてくる。
『むん』とうなずく。
  邦也がスコップで生コンを入れてくる。 膝の上がひんやりし、またぞくぞくっとする。 孝夫が鉄の棒で生コンをつついて、膝の下や腿の間に押し込んでいく。
  また邦也が生コンを入れる。 孝夫がまた押し込む。
  これを何回かくり返して、生コンが腰の所までくる。 もう膝はすっかり隠れている。 邦也が入れるのを一時中止して、孝夫が丁寧に生コンをつついて、隙間をなくす。 生コンが隅々まで入っていって、面が少し下がったような気がする。 今は股の下まで生コンが入り込んで、ひんやり冷たく濡れた感じで気持が悪い。
  横で祥子と玲子が言葉を交わす。
『棒で丁寧につつくと、ずいぶん入っていくものなのね』
『そうですわね。 でもそれだけに、壊すときには骨が折れるんじゃないかしら』
『そうね。 そういうこともあるかもね。 でも大概は大丈夫よ』
『まあ、壊すだけですから、何とかはなるでしょうけど』
  私は2人の会話をただぼんやり聞いている。 美由紀は後ろ手に縛られ、口を蓋されて何も出来ないままに、ただ心配そうに見ている。
  生コンの注入が再開する。 邦也がスコップでどんどん生コンを入れてくる。 今度は体の蔭になる所が少ないので、孝夫の作業もどんどん進む。 生コンの面が、腹、胸と上がってくる。 そして乳首も隠れ、脇の下の少し下までくる。
  もう箱の縁まで3センチほど余すだけになる。 邦也がスコップで一度に入れる量がぐっと減る。 そしてやがて邦也が手を止める。
『これで終りだよ』
  孝夫がこてで生コンの面を平にならす。 私はほっと息を漏らし、胸まで埋めている、平らな生コンの濡れたような表面を見詰める。
  今は脇の下のすぐ下まで生コンで埋められ、身体中でひんやりした冷たさを感じている。 正座して背をまっすぐに伸ばした姿勢で埋められているので、胸の前には縦が40センチ近く、横50センチほどの平らな生コンの面が出来ていて、箱の板で限られている。 箱の縁は生コンの面から2センチほどを余すだけである。
『さあ、これで出来上がりね。 祐子さん、いい子だから固まるまでは動いちゃ駄目よ』
  子供をあやすような祥子の言葉に、また皆がどっと笑う。 私も笑いながらうなずく。
  祥子が孝夫に言う。
『さて、今は3時少し前だから、固まるのは5時頃という訳ね』
『そうですね』
『ところで今、この辺の日没は何時頃かしら』
『確か、5時20分頃だったと思います』
『そうすると、日暮まであまり時間の余裕がないわね』
  ここで孝夫もやっと祥子の話の主題に気がついたらしく、応える。
『そうですね。 なるほどそうすると、暗くなってからでは壊すのは危険ですから、固まったらすぐ壊しにかからないといけませんね』
『でもそれは少しもったいないわね。 まあ、いいわ。 それはその時に考えましょう』
  この調子だと、もしかするとコンクリート詰めのまま、ここに明日の朝まで置かれるかもしれない、と思って、またぞくぞくっとする。
  祥子が話題を変える。
『でも、思ってたより上の方までコンクリートがきたわね』
『そうですね。 前に予備テストで5分の1ほど使っていますから、肩まで埋めるんでも、それだけならセメントは50キロの袋1つで足りるということなんですね』
『そういうことね。 これで必要なセメントの量も見当がついたし、軽い骨材とか鉄筋のこととか、ずいぶん色々と判ってきたわね。 本格的な首の像を造るときに役にたつわ』
  祥子もいかにも嬉しそうである。
『ほんとにコンクリートで固めて美容院に飾るプレイをするのかい?』と邦也が怖そうにきく。
『ええ、する積りよ。 今までは迷ってたけど、こんなにうまくいきそうって分って、決心がついたわ。 でも何時も祐子さんではマンネリになるから、今度は邦也さんでもいいわよ』
『いや、遠慮するよ。 それに僕では女の子になれないし』
  邦也は大分慌てている。
『それなら大丈夫よ。 あたし達で腕によりをかけてお化粧をしてあげるわよ』
『いや、とにかく結構だよ』
  邦也が一層慌てて打ち消す。 皆がどっと笑う。 私は眼をつぶって、またうつらうつらし始める。
『そうね。 祐子さんが眠って体が動くといけないから、何かで留めたほうがいいんじゃないかしら』
『そうですね。 ちょっとやっておきましょう』
  私はまた眼をあける。 孝夫は木の角棒を4本ばかりもってきて、2本を私の胸の前後の当て、端を箱の左右の縁に釘で打ち付ける。 そして肩の両側にも棒を当て、これまた箱の前後の縁に端を打ち付ける。 そして脇の下に紐を通し、前後の角棒に結び付けて、少し吊るようにする。 これで前後左右に揺れることがなくなる。
  私はまた眼をつぶり、角棒にもたれかかるようにしてうつらうつらし始める。 冷たかった生コンが何だか暖かくなってきて、気持ちよく眠りに誘う。
『すごいね、祐子さんは。 これからコンクリートが固まって身体がまったく動かなくなる、というのに、すぐに眠り始めることが出来るんだね』
  そう言ってる邦也の声を遠い世界のことのように聞いて、やがて本当に眠り込んでしまう。

5.5 完成祝い

第5章 湖畔での一日
05 /24 2017


  ふと眼が醒める。 身体が動かない。 『ああ、私は今、コンクリート・ブロックに埋め込まれて胸像に変身する実験をしてたんだっけ』と思い出す。 身体全体が周囲をかちかちに固められて、軽く曲げた手の指先までもがそのまま全く動かないのは、とても異様な感じである。 それに何だか身体が温められている感じで暑い。 顔や胸に汗が浮かんでいる。
  眼をあける。 私の頭には何か白い布がかぶせてあって、ひだの付いた布とその下端が半分覆っているコンクリート面の外は何も見えない。 身体に力を入れて前後に動かしてみる。 少しも動かない。 ほんとにコンクリートの台座に埋め込まれて胸像にされてしまったのだと思うと、ぞくぞくっとする。
  ただ、今は首だけは自由に動かすことが出来る。 首を前後に振ってみる。 右手の少し離れた所で『むっ』という声がしたような気がする。 『何だろう?』
  また頭を動かしてみる。 また『むっ』という声が聞こえる。 今度は間違いない人の声である。 それも猿ぐつわを咬まされた美由紀の声のようである。 ことによると美由紀が近くに居るのかも知れない。 そして近くに寄って来ない所をみると、また木にくくり付けられてでもいるのだろう。 どうしてかな、と思う。 それにしてもコンクリートがこんなに固くなっているんだから、もう埋め込まれてから2時間近いだろう。 早く皆が来てくれないかな、と思う。
  しばらく時が経つ。 家の方で扉が開くきしみ音がして、何人かが出てきた気配を感じる。 『さあ、祐子さんはどうしてるかしら』という祥子の声が聞こえる。
  皆が私の周りに集まる。 頭に掛かっていた布がさっと取り払われる。 眼の前に布を手にした祥子が立って笑顔を見せている。 その右に孝夫が、左には玲子と邦也が立って、みんな私を見詰めている。
『おはようございます』と祥子がいう。 『もうお目覚めだったの。 それじゃ、もう少し早く来た方がよかったわね』
『むん』
  さっきの声で気になってたので、さっそく首を右に回す。 案の定、2メートルほど離れた太いかんばの木に、美由紀がさっきの後ろ手、猿ぐつわの身拵えの外に足首も縛り合され、別紐で縛り付けられて、私の方をじっと見ている。 私も美由紀を見詰める。
『ああ、美由紀ね』と祥子は言う。 『さっき、祐子さんが眠りに入られたので、あたし達も家に入って休みましょうって言ったんだけど、美由紀が側を離れるのは嫌だと言って動かないものだから、動かずに済むようにしといて上げたのよ』
『むーん』
  私は感謝の気持を込めて、なおも美由紀を見つめる。
『そうね。 もう、祐子さんを見守っているお役目が終ったのだから、美由紀も解放してもいいわね』
  祥子は一人でうなずいて、玲子に指示する。
『玲子、美由紀をここへ連れてきてちょうだい』
『はい』
『でも、手の紐と猿ぐつわはまだ取っちゃ駄目よ』
『はい』
  玲子は笑いながら美由紀に方へ行く。
『ところで、問題のコンクリートはどうなったかしら』
  祥子が右手の人差指でコンクリートの表面をつついてみる。
『ああ、もう、すっかり固まったわね』
  孝夫も右手の指でつついてみる。 そして言う。
『そうですね。 もう5時に近いから、充分固くなってますね』
  邦也もつついてみてうなずいている。
  祥子が改めて私の顔や胸を見る。
『それにしても、何だか汗をかいてるようね。 暑いの?』
『むん』
『そう。 空気はひんやりしてるのに、なぜかしら』
  その疑問に孝夫が応える。
『ああ、それはそう言うこともあるかも知れません』
『え、なぜ?』
『ええ、コンクリートが固まる時には、スイワネツが発生するんです』
『え、スイワネツ?』
『ええ、水という字と平和の和と、それに熱という字を加えた「水和熱」です。 つまりコンクリートが固まるというのは水と化合する化学反応なので、その時にかなりの熱が発生するんです』
『ああ、そう』。 祥子もうなずく。 『すると、寒い時にこのプレイをしても、余り身体が冷える心配をしなくていい、と言う訳ね』
『ええ、まあ。 でも、それは程度問題ですし、固まった後ではまた冷えて来ますけど』
『それでも助かるわ』
  祥子は一瞬、嬉しそうな顔をする。 しかし、すぐに何かに気が付いたかのように続ける。
『でもそれだと、逆にコンクリートが熱くなり過ぎて我慢が出来なくなる、ということはないの?』
『ええ、それはもっと大きなブロックですとその心配がありますけど、この大きさでしたら表面からかなりよく熱が逃げますので、内側の方でも気温より10度か、まあ、精々15度ぐらい上がるだけだと思います』
『とすると、夏の暑い盛りにすると危ない、と言う訳ね。 よく心得ておくわ』
  祥子はうなずく。
『それじゃ、もう充分に固まっているので、さっそく枠を外しましょう』
  孝夫はかがんですぐ横に置いてあったかじやを取り上げ、まず私の肩を前後左右からおさえている角棒を斜め下かた叩き上げて外す。 そして次に、枠の角にかじやの先を当て、金槌で2回ほどカンカン叩いてから、ぐうっとよじる。 前面の、幅20センチ、厚さ1センチほどの板がぐうっとはがれる。
  同じようなことを3回くり返す。 私は直接は見ることが出来ないが、コンクリートの前面の板が全部はがされた様子である。
『うまくいくもんだわね』
  祥子が嬉しそうに笑って手を叩く。 邦也も手を叩く。
  美由紀が玲子と一緒にやってくる。 まだ後ろ手で、革のマスクを着けたままである。 私と眼が合って、にこっとする。 私も『有難うよ』との意味を込めて笑いながらうなずいて見せる。 『ああ、また』と邦也が言う。 皆がどっと笑う。 孝夫も手を休めて笑っている。
  ついで孝夫は左右の板の端のコンクリートとの境にかじやの先をこじ入れて、側面の板を順々に浮かせる。 そして最後に前から金槌でトントンと叩く。 側面の板と背面の板がつながったまま、はがれた様子。 邦也が手でひっぱって外す。
『あ、外れた』
  女の子2人が嬉しそうに手を叩く。 美由紀も体をゆらし、目でにこやかに笑う。
  首を回して胸の周囲のコンクリート台座を見回す。 台座は脇の下のすぐ下までを埋めていて、幅が約50センチ、両腕の外側にも4~5センチづつの余裕がある。 見えないけれど、背中の余裕も似たものであろう。 胸の前には縦40センチばかりの平なコンクリート面が拡がっている。 この面と正座した脚の太腿との間には無垢のコンクリートが詰まっている。 そう思うと奇妙な優越感がわき、嬉しさにぞくぞくっとする。
『底の板はどうしましょうか?』と孝夫が訊く。
『そうね。 せっかくだから、それも取ってくださらない?』
『はい』
  孝夫が底の方で、またかじやをこじ入れる。 邦也が左右の鉄の棒の頭に手を掛け、体の重さを一杯に掛けてぐうっと後ろにひっぱり、コンクリートの台座を傾ける。 孝夫がかじやで板をはがし、前に引き出す。 これを3回ほどやって、すっかり板が取り除かれる。
『さあ、これで台座が完全に完成した訳ね』と祥子が言う。 皆がまたパチパチと手を叩く。



  さっそくに祥子が言い出す。
『さあ、これで今度の合宿の眼目の一つである、コンクリート台座付きの胸像が出来上がったから、皆で完成のお祝いをしましょう』
  しかし、孝夫が技術担当の立場から心配して言う。
『ええ、それもいいですけど、でも、少しでも早く壊しにかからないと、暗くなってからでは危険ですよ。 今朝の足首を固めただけの台座でも壊すのに15分以上かかったんですから、今度はもっとずっとかかりますよ』
『そうね。 でもせっかく造ったのだから、少しゆっくり観賞しましょうよ。 さもないと第一、祐子さんに悪いわよ』
『でも』
  孝夫はなおも渋っている。 美由紀も心配そうに見ている。
『大丈夫よ。 どうしても駄目となったら、今晩はこのままにしておいて、明日の朝早くに壊せばいいんだから』
『それもそうだね』と邦也。
  しかし、孝夫はなおも心配そうに言う。
『でも明日はまた、祐子さんは貨物便で東京へ送ることになっているんだし、少し疲れ過ぎることはありませんかね』
『いいわよ。 いざとなったら貨物輸送の方は邦也さんに代って貰うから』
『いや、それだけは勘弁して下さい』
  邦也の慌てて手を振る身振りに、皆がどっと笑う。
『大丈夫よ、邦也さん。 壊すのが明日の朝まで延びても、祐子さんはきっと、輸送貨物の方も引き受けてくれるわよ。 ね、祐子さん?』
  私は軽く、『むん』とうなずく。
『ね?』と今度は邦也へ。
『ええ。 それで安心した』
  邦也はほっとしたような顔をする。 そして如何にも感心したように続ける。
『それにしても祐子さんってすごいね』
『そうよ』。 祥子は笑う。 『邦也さんももっと見習わなければ、一流のMにはなれないわよ』
『いいよ。 僕はどっちみち祐子さんには敵わないから』
  邦也のすてばち的な言い方に、皆がまたどっと笑う。
  私は、『これは本当に明日の朝までこのまま置いておかれそうだ』と覚悟を決める。 またぞくぞくっとする。
  するとそれまで黙っていた玲子が発言する。
『あの、暗くなってからでも明るい部屋に持ち込めば、安全に壊せるんじゃありません?』
『うん、それはそうだけど』と孝夫。  『でもこれだけ重いと部屋まで運べないよ。 第一、台車に載せられないし』
『ええ、でも、コンクリートのうちのかなりの部分は体から充分離れてるんでしょう?。 ですから、暗い所でもその部分だけなら安全にはがせるんじゃありません?。 そして、そういう所を先にはがしておけば充分に軽くすることが出来て、家の中に運び込めるんじゃないかしら』
『なるほど、それはうまい考えね』と祥子がすぐに反応する。 『確かにそれなら暗くなっても大丈夫そうね』
『そう言えばそうですね』と孝夫も言う。 しかし、なおも心配そうに続ける。
『でも実際問題として、どの位まで軽く出来ますかね』
『ところで今は、どの位の重さがあるの?』と祥子がきく。
『そうですね。 容積から考えて、多分、250キロほどですかね』
『なるほど、それではこのままでは動かすのは無理ね。 でも膝の上だとか、背中の後ろとかの纏まった部分をはがせば、素人考えだと半分位にはなりそうな気がするけど』
『そうですね。 そう出来れば、丁度手がかりも作っておいたし、充分台車にのせて運べるようになりますね』
  孝夫もようやく納得した様子。
『それじゃ、そうすることにしていいわね』
  祥子が皆を見回す。 孝夫が『はい』と応える。 外の皆もうなずく。
『それじゃ、それで決まりにします。 そして今はまず、祐子さんの胸像をたっぷり観賞することにします』
  祥子が嬉しそうにそう宣言するのを聞いて、私も何とはなしにほっとする。



『それじゃ、さっそくお祝いを始めましょう。 まず、新しい胸像の完成を祝って、花と線香を上げて開眼供養をしましょう』
『それから、喉が乾いたので、皆で乾杯しないか』と邦也。
『それもいいわね。 とにかく、皆で準備しましょう』
  さっそく、美由紀を除く4人が家の中に入っていく。 美由紀は後ろ手縛りの身なので手伝うことも出来ず、残って私を見守っている。 私が動けないうちは自由になるのが嫌だ、と言っているという美由紀の、下半分を革のマスクで覆い隠された顔を、また堪まらなくいとしく見つめる。 私と美由紀の目が合う。 思わず互いににっこりする。
  やがて邦也が応接用の小さいテーブルを持って現われる。 つづいて孝夫がばらの花を沢山盛った花瓶をかかえて出てくる。 玲子が小さいローソク立て2つとローソクと線香とを持ち、祥子が片手に小さい線香立てを持ち、もう一方の手にいつもの赤いバッグを持って出てくる。
  邦也がテーブルを私の前に置き、花瓶がその上に飾られる。 ローソク立て2つと線香立ては、私の胸の前、コンクリートの台座の上にひらけた場所に形よく配置される。 バッグはテーブルの横に置かれる。
  そしてもう一度、4人が家の中に入っていって、祥子と玲子が今度はビール瓶2本とコップを6つと何本かのストローを持ってきて、テーブルの上に置く。 ついで邦也と孝夫が折りたたみの椅子を全部で5つ持ってきて、横に並べる。
  皆がテーブルの前に並んで立つ。
『まずは除幕式よ。 そのためには、まず幕を掛けないとね』
  祥子は笑いながら、さっき私の頭から取った白い布をまた私の頭に掛けて覆う。 そして少し間をおいて、
『只今から、新しい胸像のご披露を致します』
と改まった口調で述べて、さっと布を引き払う。 皆がぱちぱちと拍手する。
  それから祥子は2つのローソク立てに1本づつのローソクを立て、マッチで火をつける。 そして線香を1本とってローソクの炎にかざして点火し、線香立てに立てる。 淡い煙がその先から立ちのぼる。 私は見るともなしにその煙を見詰める。 一瞬、自分が身体をコンクリートで固められた胸像の身であるも忘れ、穏やかな心境になる。
『さあ、みんな、お線香をあげて』
  邦也、孝夫、玲子がその順に1本づつ線香をとって点火し、線香立てに立てる。 最後に祥子がもう1本の線香をとって点火して線香立てに立てる。
『これは美由紀の分よ』
  美由紀がうなずく。
  皆が私の前に並び、頭を下げる。 そして祥子が両手を合わせて、般若心経を唱える。 私も目をつぶって神妙な気持になって聴く。 お経が終る。 皆が頭をあげる。
『ほんとは、この外にお水もあげるんだけど、ここは海岸でのプレイと違って、祐子さんの頭が濡れると面白くないから止めとくわね』
『むん』
『じゃ、乾杯をしましょう』
  玲子と邦也がビール瓶の蓋をあけ、6つのコップに七分目ほどづつ注ぐ。
『あたしが祐子さんの分も持つから、玲子は美由紀の分もお願いね』
『はい』
  祥子と玲子が両手に1つづつ、孝夫と邦也とが右手にコップを持って立つ。 そして祥子が
『それじゃ、初めてのコンクリート台座付き生き胸像の完成を祝って、乾杯!』
と唱え、コップを捧げる。 美由紀を除く3人も『乾杯!』と唱えてコップを捧げ、それぞれに一口飲む。 私は『なるほど、「生き胸像」か』と祥子の造語の妙を感心しながら、皆がビールを飲むのを眺める。
  祥子がやってきて、膝を付いて、口枷の穴にストローを差し込み、私の分のコップのビールを飲ませてくれる。 妙な感じだ、と思いながら、ちゅうちゅう吸って飲む。
  玲子は美由紀の分のコップを手に持って、美由紀の所に行って言う。
『祐子さんもああやって飲んでおられるから、美由紀さんも飲んでもいいでしょう?』
  美由紀が『むん』とうなずく。 玲子は手早くマスクを外し、小布れを吐き出させて、そのまま飲ませようとする。 美由紀は首を振って言う。
『ストローで』
『はいはい』
  玲子は笑って、ストローを取って美由紀の口にくわえさせ、コップを差し出してビールを飲ませる。 それを見て祥子が笑う。
『美由紀、甘えてるわね』
  孝夫が『面白いですね』と言って、ストローでビールを飲ませて貰っている私と美由紀を何枚かの写真に収める。
  皆がコップを片手に私を眺め、またビールを飲む。 祥子も時間をかけて私にビールを飲ませてくれる。
  そのうちに、私の分をも含めて皆のコップのビールがなくなる。 瓶に少し残っていたビールも、邦也が『僕が貰っとく』と言って自分のコップに注いで飲み干す。 美由紀もコップ1杯のビールを飲み終えて、自分からせがんで、玲子に元通りに小布れと革のマスクで猿ぐつわを掛けて貰う。 玲子は『はいはい、解りました』と笑いながら美由紀の顔に猿ぐつわを掛ける。
  孝夫が声を掛ける。
『それじゃ、記念に全員の写真を撮りますから、みんな、胸像の横に並んでくれませんか』
『それはいいわね』
  祥子が私の右前に腰を下ろす。 みんながそれにならって、適宜、私の右や左に立ったり座ったりしてポーズをとる。 孝夫も三脚にカメラをセットし、タイマーをかけて、右端に並ぶ。 シャッターがきれる。
『もう1枚』
  孝夫がもう一度セットし、並んで写真を撮る。 皆がパチパチと手を叩く。
『じゃ、しばらく、このまま観賞しましょう』
  皆がてんでにその辺に立ったり、椅子に腰を下ろしたりして、私を眺める。 孝夫がまた盛んに写真を撮り始める。
『いいね』と邦也がいう。
『ほんとに。 とにかく初めてコンクリートで生き胸像を作ったんだから、すごい感激ね』と祥子も言う。
『でも祐子さんが、ご自分のせっかくの姿を見られないのってお気の毒ね』と玲子。 美由紀が強くうなずく。
『それもそうですね。 それじゃ、姿見を持って来ましょうか』
  孝夫が立ち上がる。 玲子も立ち上がり、孝夫と連れだって家に入っていく。
  ほどなく孝夫と玲子が姿見をかかえて戻ってくる。 祥子がテーブルをちょっと脇に寄せ、2人が鏡を私の前に置いて、玲子が布の覆いを外す。 そして私に訊く。
『この位でどう?』
  鏡には、高さ70センチばかりの四角いコンクリートの直方体の上に、女の子の脇の下から上の像がのっているのが映っている。 『いいよ』の積りで『むん』とうなずく。
  じっと鏡の中の女の子を見詰める。 とてもチャーミングに見える。 ちょっと首を曲げて、にっこりほほえんでみる。 鏡の中の女の子の胸像も首を曲げて、にっこりほほえむ。 体が全く動かないのとあいまって、何だか、遠い国の出来ごとのような、とても不思議な気がしてくる。
『あら、祐子さん、ご自分の姿に見惚れてるわよ』と祥子が面白がる。
『あら、ほんと』
  玲子が笑いながら応える。



  そのうちに線香がみな燃え尽きる。 あたりが段々薄暗くなってくる。 すっかり短くなった2本のローソクの炎だけがだんだん明るく輝いてくる。 鏡の中の女の子の顔も次第に見にくく、表情が分らなくなってくる。 日はもう、とっくに沈んでいるのだろう。 私はますます不思議な国に居るような気がして、うっとりしてくる。
  やがて祥子がやおら立ち上がる。
『さて、そろそろ日が暮れて暗くなるから、お祝いの最後の行事をするわね』
『ああ、またタバコでご供養ですか』と孝夫。
『ええ、そう。 これをしないと、祐子さんは満足して下さらないの』
  祥子はバッグから布粘着テープを取り出し、私の口の上を3重に巻く。 そして私に語りかける。
『口枷があるから、これだけで絶対、空気が漏れないのよね?、祐子さん』
『むん』
  さらに鼻の下に紙のパッドを貼り付け、バッグから取り出したタバコ・ペアを私の鼻にセットする。 とたんに呼吸の周期が少し長くなる。 このタバコ・ペアは吸口に巻いてあるティッシペーパーの色が白く見えたから、2号タバコであろう。 
  つづいて祥子はローソク立てのうちの1つを持って前に立ち、私の目をのぞき込む。
『じゃ、いいわね』
『むん』
  祥子はまず、右のタバコの先の下にローソクの炎をもってくる。 息を吸う。 タバコの刺激を喉に感じる。 ついで左のタバコにも同様に点火する。
  祥子はローソク立てをもとの位置に戻し、立って手を合せ、『色即是空、空即是色』を3度繰り返し唱える。 私は目をつぶり、心を鼻の奥に集中して、出来るだけ静かに少し長い呼吸をくり返す。
  その後、誰も何も言わず、少しも動かず、静かな時が続く。 誰かが立って、シャッターを切る音が2回ばかりする。 そしてその後、また何も物音がしなくなる。 腹に何も入っていないせいか、すぐに酔ったような佳い気分になる。 喉のいがらっぽさも増すが、せき込むほどではない。
  そのうちに鼻から入ってくる空気の中にもタバコの刺激がなくなる。
『ああ、もう終ったんだな』
  まだ誰も動かない。 私も鼻に残る燃えかすをすうすう言わせながら、目をつぶったまま、静かに呼吸をつづける。
  やがて、『さあ、終った』という祥子の声。 目をあけてみる。 空にはまだかなり明るさが残っているが、あたりはもうすっかり暗くなっていて、鏡の中ではかろうじて胸像が識別できる程度になっている。
  祥子が左手をかざして腕時計を見る。
『さあ、もう6時半ね。 これで世紀の作品、生き胸像の観賞も充分したし、行事も終ったから、これから祐子さんをコンクリート・ブロックから取り出す作業にかかりましょう』
『そうですね。 じゃ、さっそく道具を持ってきます』
  孝夫が邦也と2人で家に入っていく。   祥子は私の鼻から燃えかすを取り除き、口を覆っている布粘着テープをはがす。
『ああ、大分お化粧がはがれちゃったわね。 いつもは美由紀に直させるんだけど、今は手が出せないから、ちょっと玲子が直してあげてくれる?』
『はい。 じゃ、あたしの化粧道具を持ってきます』
  玲子がやはり家に入っていく。

さおりん

これは若い男女4人(途中からは6人)で結成した「かもめの会」の活動を記録した、明るく楽しいSMプレイ小説です。この小説は原著作者・久道あゆみさんより許諾をいただいて掲載させていただいております。

この物語はフィクションです。描写における安全性・遵法性・実現可能性などは担保されておりません。実際に試みる場合はプレイメイトとの合意を得ることはもちろん、十分な安全確認を行い、法律に触れないことを貴方の責任において確認してください。結果、どのような損害が発生しても責任は負いません。