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1.0 プロローグ

序 章 プロローグ
04 /30 2017


 第2回月例会から丁度1週間経ち、8月に入って5日ほどした火曜日の夜の8時頃、久しぶりに祥子から電話がある。 電話のベルに応じて受話器を上げ、『はい、三田です』と応える。 向こうからは祥子の明るい声が聞こえてきて、会話が始まる。
『あら、祐治さん、お久しぶり。 お元気かしら?』
『うん、僕はとても元気だ。 祥子と美由紀も、2人とも元気かい?』
『ええ、あたし達も至って元気で、少々時間を持てあましているの』
『ああ、そう。 僕もご同様で、ちょっと時間を持てあまし気味だ』
『やっぱりね』
 祥子の笑い声が伝わってくる。
『所で祐治さんは、この前の月例会の後遺症、もうお治りになった?』
『うん、身体の方ももう完全に元に戻ってるよ』
『ああ、そう。 この前にお電話した時には、祐治さんはまだ身体のあちこちが少し痛いっておっしゃってたけど、すると今はもうすっかりいい訳ね?』
『うん。 あの時はまだ、前日のプレイの名残りであちこちがおかしかったけど、それはもうその日のうちにすっかり治って、今はもう何ともないよ』
『ああ、それはよかったわ』。 祥子はさも安心したように言う。 『実はあの時のプレイ、少しきつすぎたんじゃないかって気になって、翌日の朝にお電話したら、案の定、身体のあちこちが少し痛いっておっしゃってたでしょう?。 でも大したことはないって伺って少しは安心したけど、その後もずっと気にはなってたの』
 祥子としてはめずらしく言うことが神妙である。
『ああ、それはどうも有難う。 僕の方は祥子の電話の日の夕方にはもうすっかり治っちゃってたんで、すっかり忘れてた。 僕の方から、もう治ったからって電話すればよかったかな』
『いいえ、そんなことはないわ。 やはり、あたしがお掛けすべきだったのよ』
 祥子の言うことは引き続いてしおらしい。 しかし、すぐに本来の祥子に戻って、楽しそうにつけ加える。
『でも安心したわ。 祐治さんはあの位痛めつけても、1日も経てばすっかり元に戻るって判って。 これからも気兼ねなしにプレイができるわ』
『うん、その調子。 祥子はやっぱりそう言ってる方が似合うね。 さっきみたいに僕の身体を心配して貰うと、かえって戸惑うよ』
『まあ、ひどい』
 祥子はまた大きく笑う。
『でも、そうは言っても、お手柔らかに頼むよ』
『はいはい。 よく心得て、節度を保って充分に楽しませて差し上げます』
 祥子はもうすっかり何時もの彼女に戻って、再び明るく笑う。



 話題を変えて訊く。
『所で今日は何の用?。 まさか、僕の身体を心配して、お見舞いにわざわざ電話をくれた訳でもなかろう?』
『まあ、ひどい。 あたしだってお見舞いに電話することぐらいあるわよ』
『と言うと、今日はそうだって言うのかい?』
『ええ、それもあったけど』
『あったけど?』
『ええ、その他にもう一つ、是非お話ししたい用件があったの』
『ああ、やっぱり』
 私は笑う。 祥子も向こうで笑い声を立てている。
『というと、この前に話があった、夏休みの合宿のことかい?』
『ええ、そう。 感がいいわね』
『うん、実はもうそろそろ連絡がある頃だと思って、うずうずして待ってたんだ』
『ああ、そう。 それはお待ち遠さまでした』
 祥子がまた笑い声を立てる。 そしてやっと用件を切り出す。
『所で祐治さんは、来週、16日の土曜日から1週間、時間があいてらっしゃる?』
『うん、その頃なら、今の所、まだ予定は全然ない』
『ああ、そう。 それはよかったわ。 実は孝夫が調べてくれた結果、来週の土曜日からの7日間、つまり16日から22日まで、西伊豆の海岸の例の孝夫の家の別荘が空いてることが判ったの。 だからその間をあたし達が使わせて頂き、祐治さんにも是非参加して貰おう、と言うことになったの』
『ふーん、ちょっと待ってて。 今、手帳で確かめるから』
 私は鞄の中から能率手帳を取り出し、カレンダーのページを開けて確認する。
『ああ、なるほど。 16日の土曜日から22日の金曜日までの間だね』
『ええ、そう』
『うん、それならば僕も確かに空いてる』
『ああ、よかった』
『それで、みんなも都合がいいんだね?』
『ええ、もちろんよ。 孝夫はもちろん大丈夫だし、あたしも都合はいいし、美由紀もいいって言うの』。 そう言って、祥子は『ね、美由紀?』と声を掛け、横で『むむ』と言うくぐもった声がするのが聞こえてくる。 また後ろ手に縛られ、口を赤い革のマスクで覆われている美由紀の姿が眼に浮かぶ。
『あ、美由紀もそこに居るのかい?』
『ええ、居るわよ』
『また、いつもの格好でかい?』
『ええ、そう。 美由紀がそうしてって言うものだから』
 また、『むむ』というくぐもった声が聞こえる。 おそらくは美由紀が『違う』と首を振っているのだろう。 いつものことなので、それ以上は詮索せずに先に進む。
『まあ、それはともかくとして、それじゃ、僕も参加させて貰おうかな』
『わあ、嬉しい。 それじゃ、さっそく孝夫に連絡して、決定ということにするわ』
 祥子の声ははずんでいる。
『うん、それはいいけど、その前に少し具体的に内容を聞いておきたいな』
『ええ、どうぞ。 何でもお答えするわ』 
『それでまず、行先はどこで、どういう所なの』
『ええ、別荘は西伊豆のM町のはずれの海岸にあるんですって。 とても静かな所で、すぐ前に砂浜もある人里はなれた入江で、とてもいい所らしいわよ』
『ふーん』
 私は伊豆半島の地図を頭に思い浮かべてみる。 M町といえば、もう突端に近い所である。 そのはずれと言えば、いかにも人里離れた感じがする。
『それで孝夫はもう、管理して下さっている地元の方に連絡して、O.K.をとってあるの』
『ふーん、それは手回しがいいね』
『ええ、善は急げ、と言うから』
 祥子はまた笑う。
『それで、合宿は何時から何時までやる予定なの』
『ええ、今のところ、さっき言った空いてる日を全部使わせて貰って、8月16日の土曜日に行って22日の金曜日に帰ってくる、6泊7日を予定してるんだけど』
『え、7日間も?』
 私は合宿と言っても、精々3~4日と思っていたので、7日間と聞いてちょっとびっくりする。
『ええ、そうよ』
『でも、7日間は長いね。 退屈はしないかい?』
『そうね。 でも別荘には私達4人だけで泊まるのだし、その浜にはほかに家は一軒もなく、人がほとんど来ない所らしいから、野外プレイも含めて、思う存分プレイが出来そうよ』
『ふーん』
『それも日頃のプレイを心ゆくまで出来るというだけじゃなくて、合宿でないと出来ないプレイだとか、海岸だから初めて出来るプレイだとかも沢山あるんじゃないかしら』
『ふーん、なるほど』
 今日の祥子はいつもにも増して雄弁である。 参加者が我々「かもめの会」の4人だけで、しかも人目を気にせずにプレイが存分に出来るときいて、私にも7日間が長くないような気がしてくる。
『とにかく、7日やそこらはすぐに経ってしまって、恐らく足りないくらいよ。 周りに気兼ねをしないで、野外で色々のプレイの限界に自由に挑戦できるだけでも楽しいんじゃない?』
 祥子にそう駄目を押されて、私も遂にその気になる。
『なるほどね。 それじゃ、お言葉に甘えて、7日間をフルに遊ばせて貰うことにしようか』
『まあ、よかった』
 祥子は嬉しそうな声をあげる。
『それで出発当日は、僕はどうすればいいの?』
『ええ、今度の旅行は孝夫の車で行くことになっているので、道順だから最後に祐治さんを拾って行くことにするわ』
『ふーん。 孝夫君の車でかい。 ちょっと悪いな』
『いいのよ。 彼は車が好きで、ドライブがしたくてうずうずしてるんだから』
『ああ、そう。 じゃ、遠慮せずに乗せて貰うよ』
『それじゃ、行く日の朝は8時半頃までに祐治さんのマンションに迎えに行くから、支度してマンションの前で待ってて』
『うん、分った。 それじゃ、僕は自分の荷物だけ持って、マンションの前で待っていればいいんだね』
『ええ、そう。 特にプレイに必要そうな品は忘れないでよ』
『うん、解った』
『もう後、打ち合わせておくことはないかしら』
『うん、そうだな』。 私はちょっと考える。 『まあ、大体はいいと思うけど』
 これで一応、打合せが終る。
『それじゃ、16日、土曜日の朝の8時半だから、忘れないでよ。 もし、万一、何か変更でもあったら、またご連絡するわ。 祐治さんも何かあったら連絡してよね』
『うん、するよ』
『じゃ、土曜日の朝、伺うから、よろしくね』
『うん、マンションの前で待ってる』
『あたし、合宿用に色々とプランを考えているから、覚悟してらっしゃい』
『うん、期待してるよ。 じゃ、今は声が聞けなくて残念だけど、美由紀にもよろしく言っといてくれないか』
『ええ、分かったわ。 じゃあね』
 電話が切れる。 7月の始めから始まった夏休みも後半に入って、実家にも帰らず、K町のマンションの一室でいささか時間をもてあましていた私は、喜んで合宿に参加することにした。

さおりん

これは若い男女4人(途中からは6人)で結成した「かもめの会」の活動を記録した、明るく楽しいSMプレイ小説です。この小説は原著作者・久道あゆみさんより許諾をいただいて掲載させていただいております。

この物語はフィクションです。描写における安全性・遵法性・実現可能性などは担保されておりません。実際に試みる場合はプレイメイトとの合意を得ることはもちろん、十分な安全確認を行い、法律に触れないことを貴方の責任において確認してください。結果、どのような損害が発生しても責任は負いません。