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第1部 プレイ提示期編

第1部 プレイ提示期編
04 /01 2017
これは登場する4人の男女が全員それぞれに明るいSMプレイを楽しむ、明朗な青春SM小説「かもめの会の物語」の導入部に当たる第1部です。 この部では、私(祐治)が 祥子、美由紀 の2人と意気投合して、何回かの訪問、来訪のうちに互いの手の内のSMプレイを提示し合い、良き助力者である 孝夫 も加わって「かもめの会」を結成します。 そして会の本格的活動に入る前の一日、皆で祥子の誕生日を祝います。

目次


 第1章  はじめての訪問
私が祥子と美由紀に誘われて2人のマンションに行く。

 第2章  祥子達の来訪
2人の来訪を受けて、私の一人プレイを披露し、物語る。

 第3章  2度目の訪問
孝夫も加わって、4人で「かもめの会」を結成する。

 第4章  2度目の来訪
色々なプレイを見せ、一人プレイの来歴を語る。

 第5章  祥子の誕生日
祥子の誕生日を「かもめの会」流儀で祝う。

1.1 祥子と美由紀

第1章 はじめての訪問
04 /21 2017


『あ、ミタさーん』
  向こうから歩いてくる2人連れの女の子の一人が、少し離れた所から軽く手を挙げて声を掛けてくる。 見ると祥子である。 祥子の横の連れはいつもと同じ 美由紀である。 この2人はとても仲がいいらしく、私が会う時はいつも一緒である。
『やあ』と応えてこちらも軽く手を挙げる。 ここはT大の構内のS池のほとり、木立の中の散歩道である。 今日は土曜日だし、仕事が一区切りついたので、昼食を食べたあとで構内を散歩していて、そろそろマンションに帰ろうかな、と思っていた時のことである。
  互いに近づいて 丁度 椎の大木の横で落ち合い、立ち止まる。
『やあ 今日は。 またお2人お揃いで。 今日はどちらへ?』
『ええ ちょっと』
  祥子はちょっとはぐらかすように笑う。 そして改めて言う。
『でも 三田さん。 丁度いい所でお会いしたわ』
『え?、丁度いいって、何か僕に用でもあったのかい?』
『いいえ、特別 ご用という訳ではないけど』
  祥子はまたにっこり笑う。 そして、
『でも三田さんは、今日は今から時間が空いていらっしゃらないかしら?』
と都合を尋ねてくる。
『うん、実は今日は仕事も一区切りついたので、今からマンションに帰ってゆっくりしようか、と思っていた所なんだ』
『それじゃ今から、あたし達のマンションに遊びにいらっしゃらない?』
『え?、君たちのマンションに?』
  私は一瞬とまどうが、すぐに2人が共同でS橋近くのマンションの一戸を借りて 一緒に生活している、と言っていたのを思い出す。 祥子が続ける。
『ええ、そう。 あたし達も今日はマンションでゆっくり過ごしましょうというんで、すぐそこのHでケーキを買って帰る所なの。 でも いつも同じ2人だけではつまらないから、どなたかご一緒して下さる方があるといいわね、と言いながら、ちょっとT大の中に入ってきてみた所なの』
  なるほど そういえば確かに、美由紀がケーキの箱らしきものを包んだ風呂敷包みをかかえている。
  「祥子」はフルネームを「岩崎祥子(イワサキサチコ)」といい、近くの歯科大に通っていて、身長が165センチばかりの 理知的で美しい容貌をもった 活発なお嬢さんである。 また「美由紀」は「小川美由紀(オガワミユキ)」であって、祥子よりは大分小柄で 身長150センチ余りか。 愛くるしい顔立ちをしており、何でも近くのN大の数学科に通っているとかで、やや控え目でおとなしそうなお嬢さんである。 2人は同い年で、血縁関係はないらしいが、いつも一緒に居て何かにつけて『美由紀』『祥子』と呼び交わしているさまは、まさに仲の良い姉妹のようである。
  この2人は昨年秋のT大の文化祭で 私の担当したパネルについて質問してきたお嬢さん方で、そのすぐ後でまた街で出会って一緒に喫茶店に入り、コーヒーを飲み、名刺を交換した間柄である。 その後しばらく会うことがなかったが、新学期になってまた街で出会い、それ以来何回か街を一緒に歩いたり喫茶店に入ったりした。 そして今ではすっかり親しみを感じ、2人が互いに呼びあっている名前にひかれて私も2人を姓ではなく名前で『祥子さん』、『美由紀さん』と呼ぶようになっている。 どちらもガール・フレンドとして悪くないな、と思っていた矢先なので、心が動く。 とっさに『うん、有難う』と応える。 しかし、一応は遠慮の意味も含めて訊いてみる。
『でも、君達は2人だけで一緒にマンションに住んでいると聞いてるけど、そのような女の城に僕なんかが入って行っていいのかい?』
『ええ、やたらな人はお入れしないけど、三田さんなら大歓迎よ。 もしご都合が悪くなかったら 是非いらっしゃって下さらない?』
  祥子はますます積極的に誘ってくる。 私もすっかり乗り気になる。
『それじゃ お言葉に甘えてお伺いするかな』
『まあ 嬉しい。 じゃあ さっそく、一緒にいらっしゃってね』
  祥子のその言葉に 美由紀も横でにっこりする。



  さっそく3人で歩き出す。 A門を出てH通りに出て、すぐに通りを反対側に渡って H3丁目の方角に向う。 今日は5月下旬の天気のよい土曜日の午後なので、歩道にかなりの人通りがあり、並んでは歩けない。 祥子が先頭を行き、美由紀がそのあとにつづき、私が一番後から人混みをぬうようについていく。
  H3丁目の交差点を通り過ぎてさらに少し行き、右から入ってくる可成り広い道路を横断してから右に曲がり、その道路の南側の歩道を行く。 やや人通りが減り、時々人を避けながらなら 歩道を3人並んで歩けるようになる。 私を中央に、右に祥子、左に美由紀が並んで歩いていく。 ちょっと両手に花の気分である。
『君達2人は学校はもっとO駅に寄った方で、H通りにはあまり縁がないだろう。 今日は何でT大の方まで行ってたの?』
『ええ それは、Hのケーキが食べたかったから』
  祥子はそう答えて にっこりする。
『それもあるけど』と美由紀が左から口をはさむ。 『実は祥子が、出来たら三田さんの顔を見たいからH通りの方へ行ってみましょう、って言い出して、少し遠回りすることになったのよ』
『いや、それを言い出したのは美由紀じゃない』
『いいえ、祥子よ』
  美由紀も譲らない。 しかし 私は2人のこのやり取りを聞いて ちょっとびっくりする。
『それはどちらでもいいけど、でもそうとすると、とにかく最初から僕がお目当てだったのかい?』
『ええ ほんとはね』
  祥子がまた笑いながら答える。
『また どうして僕を』
『それは ひ、み、つ。 マンションに着いたら教えてあげるわ』
『ちょっと怖いな。 まるで誘拐されてるような気分だな』
『ええ ほんとに誘拐してる積りよ』
  祥子はまたにっこり笑う。
『実は今日は何としても三田さんをお迎えする積りでH通りに行ったの。 そして三田さんはよくS池の周りを散歩なさるっておっしゃってたから、まずそこへ行って、もしそこでお会い出来なかったら研究室まで押しかけていって、さらってくる積りだったんだから』
『それは惜しいことをしたな。 もしそうなったら研究室の仲間に、こんなきれいな女の子2人に誘われたんだぞ、って自慢できたのに』
『あらあら。 それじゃやはり、三田さんの方が一枚上ね』
  祥子はまたおかしそうに笑う。 私もすっかり愉快な気分になる。
『でもそうだとすると、さっきとは大分話が違うね。 ただケーキをご一緒に、というんじゃなかったのかい?』
『ええ ほんとはね』
『何だか逃げ出したくなったな』
『もう駄目よ、逃がさないわよ。 それにもう、あそこに見えるのがあたし達のマンションなんだから』
  祥子が左手前方を指差して いたずらっぽく笑う。 ちょっと立ち止まって、
『あ、どれ?』
と指の方向を見る。 その方向に茶色のこぎれいな7~8階建ての建物が見える。
『ああ、あの茶色の建物かい?』
『ええ そう』
『なるほど もう、そんなに近くまで来てたのかい。 それじゃしょうがないな。 それにこのように両側からお2人に挟まれてては 逃げ出すことも出来ないし。 僕も観念するかな』
『ええ そうなさい』
  また 3人が歩き始める。
『でも 学校にも近くて いい所にあるね』
『ええ それだけが取り柄ね。 でも それだけに敷地も狭くて、車を置いておく所が全然ないのよ。 だから車も買えないの』
『車なんて学生の身分で贅沢だよ。 それに学校も歩いて行けるのだし、必要がないだろう?』
『ええ それはそうね』
  祥子がうなずく。
『それに』と美由紀が左からいう。 『車が欲しいときはね、祥子の従兄弟の男の子が車で迎えに来てくれるの』
『ふーん、従兄弟の人が車を持っているの。 それはいいね。 そうして必要な時に迎えにきて貰った方がずっと便利だね』
『ええ そうね。 ほんとはその車は叔母の家のもので その子のものじゃないけれど、家の人が余り乗らないので ほとんど一人で乗り回しているみたいだから、持ってるのと同じことね』
  マンションの前に来る。
『さあ 着いたわよ』と祥子が言う。
  立ち止まって上を見上げる。 道路側の外廊下の数を数えると、マンションは7階建である。
『この6階の、左の端があたし達の住いなの』
『というと、東の端になるのかな』
『ええ そう。 お蔭さまで朝早くから日が入って、気持がいいわよ』
  道路に面した入口の上には「Hマンション」という飾り煉瓦での表示がある。 『さ 行きましょう』との祥子の声に促されて一緒に入り口を入る。 そして狭いロビーの一隅にあるエレベーターで6階にあがり、外廊下を歩いて端まで行く。 つき当たりに扉があり、612と番号が書いてある。
『ここよ』と祥子がいう。



  入口の扉をあけて、祥子を先頭に3人が中に入る。 入った所が玄関で、その先に中廊下が右手にのびている。 廊下をたどり、つきあたりの扉をあけて中に導かれる。 そこは6畳位の広さのLDKになっており、右手にカウンターがあって、その奥が台所になっている。 また 左手には白いレースのカーテンの陰にガラスの2枚引戸の窓があり、その先にはバルコニーが巡っているらしく、手すりが見える。 一方 正面の奥には巾の狭い仕切り壁の両側に引戸が一つづつ見える。 また その左の壁には食器戸棚があって、紅茶茶碗やガラスのコップ、グラスなどがきれいに並べられている。 LDKの中央には木の食卓が左右に長く置いてあり、その周りに木の椅子が4脚納まっている。 壁などもいかにも女の子の住いらしく、きれいに飾られている。
  美由紀が早速 カーテンをしたままで窓のガラス戸を開ける。 レースのカーテンが軽く揺れ、気持よい風が入ってくる。 それと共に下界の騒音も小さいながら まぎれ込んでくる。
『ちょっと外を見せて貰うよ』と断って窓際に行き、カーテン越しにバルコニーの手すりの外を眺める。 近くには高い建物が少なく、遠くの方まで町並みが見渡せ、その遥かかなたには遠くの山並みが霞んで見える。 あれは筑波かしら。
  窓際から食卓の横に戻る。
『いい所に住んでるね』
『ええ お陰さまで』
  祥子はそう応えて、さらにつけ加える。
『確かに眺めはいいわね。 それに 窓や戸を開けてても、ほかからマンションの中を見られる心配が全くないのが取得なの』
『うん、それが一番いいね』
  そこで改めて祥子が笑いながら言う。
『所でここはめったに男の方はお入れしないんだけど、三田さんは特別なのよ』
  美由紀も笑いながらうなずく。
『ああ、それは光栄だな』と私も笑顔で応える。
『それから』と祥子はつづける。 『これは初めにお断りしておくけど、この奥は男子禁制だから、あたし達2人が揃って特別許可を出さない限り入っちゃ駄目よ』
  また 美由紀がうなずく。
『うん、解った。 つまりこの奥には、お2人のプライベイトな部屋があるんだね』
『ええ そう。 そしてあたし達は、たとえ自分の部屋でも 勝手には男の方をお入れしない って取り決めをしてるの』
『なるほど、共同生活をするとなると お互いにその位の心遣いは必要だね』
  私は健全なその考え方に共感を覚えてうなずく。 そして わざと姿勢を正し、
『はい、よく解りました。 お姫様方のお部屋には絶対に入りませんからよろしく』
と改まった口調で言って 頭を軽く下げてみせる。 2人が吹き出して笑う。
『でも 入れないとなるとますます興味が湧くね。 一体 どんな部屋なの。 例えば箒が立てかけてあるとか、ベラドンナの花が咲いてるとか』
『まあ、あたし達が魔女だと言うの?』
  祥子が大きく笑う。 そしてなおも笑いながら言う。
『お気の毒さま。 そんな特別な部屋じゃないわよ。 向かって右が美由紀の部屋で、左があたしの部屋だけど、両方とも南側のベランダに面した全く同じ造りの6帖の畳の部屋で、押入れがあって、間がふすまでつながっていて、壁際に机や本箱や洋服ダンスが並んでいるだけよ。 ご期待に副えなくて悪いけど、箒もベラドンナの花もないわよ』
『ああ それを聞いて安心した。 僕は理由も告げられずに連行されてきたから、これはまたてっきり 魔女にさらわれたんじゃないかって心配してた』
『まあ 言うわね』。 祥子がまた大きく笑う。 『今日はちょっと散らかしてるから駄目だけど、そのうちに一度、入口から中を見せてあげるわよ』
『ああ、それはどうも有難う』
  私はなおも周りを見回す。
『でも、それにしても、ほんとにお2人の共同生活にぴったりのマンションだね。 いい所を見付けたね』
『ええ お蔭さまで』
  祥子はそう応えた後、『じゃあ まず、お茶とケーキをご馳走するから、三田さんはそこにお座りになって』と手で示す。
『うん、有難う』と応えて、言われた通り、食卓の椅子のうちで入り口に近い側の椅子を引いて座る。   祥子が私の正面の食器戸棚からケーキ皿を3枚出して並べ、ケーキの箱のふたを開けて中を見せながら訊く。
『三田さんはどれがお好き?』
  私は箱の中をちょっと見て答える。
『うん、ショートケーキを貰おうかな』
『やっぱりね』
  祥子は紅茶の用意を始めた美由紀と顔を見合せ、2人でおかしそうに笑う。
『いったい何が』
『ええ、さっき、ケーキを買ったときにね』と 祥子がケーキを皿に取り分けながら説明する。 『2人で 三田さんがどれをお取りになるか 賭をしようって言ったの。 でも2人ともショートケーキって言うものだから、賭にならなかったの』
『ふーん、そうだったの。 僕はそんなに何時もショートケーキかな』
  私は自分でもおかしくなる。
『ええ そうよ。 今までに4回 お茶をご一緒したけど、そのうち3回がショートケーキだったわ。 一度は丁度ショートケーキがお店に切れていて、仕方なくマロンケーキをお取りになってたけど』
『よく憶えているね。 怖いみたいだな』
  私も2人と一緒に笑う。 その間に美由紀が紅茶茶碗セットとスプーン、フォークを出して並べ終る。

1.2 プレイへの招待

第1章 はじめての訪問
04 /21 2017


『それじゃ ケーキをいただく前にびっくりするようなものをお見せするから、ちょっと待っててね』
  祥子はそう言っていたずらっぽく笑い、美由紀を促して 一緒に左手の引戸から奥に入っていって引戸を閉める。
  一人とり残されて 改めて周りを見回す。 壁にはどこかの山の湖の風景の写真のついたカレンダーが下がっている。 そしてその横には大輪のばらの花模様の 純白のレース編みがピンで留めてある。 いかにも女の子の住いらしく、ほほえましく感じる。 「びっくりするようなもの」と言っていたが、何を見せてくれる積りかしら。 どうせまた女の子のちょっと気のきいた趣味のものだろうな、と思いながらも、期待に胸がはずむ。 でも 単に何かを取り出してるにしては少し時間がかかっている。 何か変った衣装に着替えてでもいるのだろうか。
  5分ほどして2人が出て来る。 見ると2人とも何も持ってない。 それに服装も見える所はほぼ前のままで、特に変った衣装を着けてきた様子もない。 ただ美由紀の上半身は 余分にはおった紺色のケープで覆われている。
  2人が食卓の横に立つ。 祥子がまたいたずらっぽい笑顔を見せて言う。
『いいこと?。 あまりびっくりしないでよ』
『うん』
  私はうなずく。 美由紀は恥ずかしそうにちょっと眼を伏せる。
  祥子がケープの紐を解き、さっと脱がせる。 下にはブラウスの胸のふくらみの上下に白い綿ロープが2本づつ横に走って二の腕を縛りつけている。 思わず息をのむ。
『ちょっと後ろもお見せして』
『はい』
  美由紀が体の向きを変えて背中を見せる。 胸の4重の紐が背中の結び目できっちり留まっている。 そして両手首が腰の後ろできっちり縛り合され、その紐の先が上に延びて、ぴんと張って胸の紐の結び目に繋がっている。 私は呆然としてそれらの紐を見つめる。
『もう よくごらんになった?』との祥子の声。
  つられるように 『うん』と返事する。
『じゃあ もういいわ。 また 前を向いて』
『はい』
  美由紀がまた前を向く。 しかし 恥ずかしそうに眼は伏せたままである。
『ふーん。 お2人にはこんな趣味があったの』
  私は興奮を抑えきれず、顔のほてるのを感じながら 息をはずませる。 我ながらちょっと 声もかすれている。
『ちょっとびっくりなさった?』
『うん、とても』
『でも 三田さんなら解って貰えそうな気がしたものだから お見せするのよ』
  この祥子の意外な言葉に 思わず聞き返す。
『え?、また どうして?』
『ええ、この間、H通りの喫茶店でお茶をご一緒した時、誰も居ない隣のテーブルに雑誌が開いたままで置いてあって、それに高手小手風に縛られて正座している女の人の写真が載ってたでしょう?。 その時 三田さんがそれを何回かちらっと見て、何だかとても気にして居られたの』
『えっ、そんな所を見られてたの』
『ええ そう』
  私はその時の状況を思い出して、思わず顔がかっとなる。 確かにあの時は大分興味をそそられていた。 あのようなヌードの縛り写真は前にも何回か見たことはあるが、遠目で見たその写真のモデルは何とも言えない可憐な雰囲気を持っていて、その上 紐の掛け方にも色々と凝った面白さがあるようだったので、手に執ってつくづくと点検したいような気持にかられた。 もしもこの2人と一緒でなかったら、ほんとに手を出していたかもしれない。
  祥子が続ける。
『その時 あたし、三田さんのご様子を見ていてぴんときたの。 三田さんもきっとこういうことに興味を持っておられる方に違いないって』
『ふーん』
『それで あたし達も丁度、こういう遊びに理解のあるお友達、特に男のお友達が欲しくなってた時だったので、美由紀と相談して今日お誘いしてみたの。 だから今日はほんとに最初から 三田さんをお誘いする積りでT大に行ったのよ。 そうしたら偶然にあそこでお会いして』
『ふーん、なるほど』
  私にも誘われた理由が解ってくる。 美由紀もちょっと顔をあげ、
『三田さんに軽蔑されたり嫌われたりすると嫌だからって あたし言ったんだけど、祥子がきっと大丈夫よって言うものだから、こんな姿をお見せして』
と言って、また顔を伏せてもじもじする。
『有難う。 とっても嬉しいよ。 軽蔑だなんてとんでもない』
  私はまだ興奮を押えきれずに心底から保証する。
  祥子が私の正面の椅子を少し窓の方に寄せて、美由紀を座らせる。 そして横の椅子を美由紀の隣りに移して自分の席を作る。
『じゃ、紅茶をお入れするわね』
  祥子は3つの紅茶茶碗に一つづつのティーバッグを入れ、卓上の自動湯沸しポットからお湯をそそぎ入れる。 そしてちょっと待ってからバッグを引き上げて小皿の上に置き、茶碗の一つを私の前に差し出す。
『どうぞ』
『うん、有難う』
  祥子はさらに『お先にどうぞ』と生クリーム容器と砂糖壷とを私の方へ押しやり、自分の椅子に座る。
『じゃ、お先に』
  私は自分の紅茶に砂糖をスプーンに1杯入れ、生クリームを加えて、砂糖壷と生クリーム容器を食卓中央に戻して、スプーンでゆっくりと紅茶をかきまぜる。
  祥子はまず美由紀の紅茶に砂糖と生クリームを入れ、スプーンでゆっくりかき混ぜて、後ろ手の美由紀にそっと一口のませる。 そしてフォークで美由紀のケーキを一口分とって美由紀の口にそっと入れる。 美由紀はそれをゆっくり味わっている様子。 私はその情景にちょっとみとれる。 美由紀もそれに気がついたらしく、また恥ずかしそうに顔を伏せる。
  祥子はそれから自分の紅茶をブラックのまま一口飲む。 私も紅茶を一口飲み、ケーキを食べ始める。



  ケーキを一口食べてから、『あの』と声を掛ける。 フォークで美由紀のケーキを切っていた祥子が顔を上げる。
『あの、君達はいつもこういうことをしてるのかい?』
  祥子が短く答える。
『ええ』
  そして切ったケーキの一切れを美由紀の口へ運んでから、またこちらを見て付け加える。
『いつもという訳ではないけど、紐を掛けたり位はよくするわね』
  話を進める。
『それに 食事をさせたり?』
『ええ そう。 美由紀は言わばあたしのペットなの。 だから あたしは美由紀をとても可愛がって、食事もこうやって食べさせたりしてるの』
『それは美由紀さんも合意の上でだね?』
『ええ もちろんよ。 ね、美由紀?』
  同意を求められて美由紀は口のなかのものを飲み込み、また恥ずかしそうに下を向いて、
『ええ』
と小さな声で応える。 そして
『じゃまた 紅茶をあげるから、顔をあげて』
と声をかけられてやっと顔をあげ、祥子の支える茶碗から紅茶をゆっくり飲む。
『それで君達は、こういうペット風のお食事の外にもプレイをしてるのかい?』
『ええ、色々としてるわ』
  祥子は短くそう答えてから、
『やっぱり三田さんはプレイという言葉をご存知なのね』と嬉しそうな顔をする。
『うん、まあね』と笑顔でごまかす。
  また 紅茶を一口のみ、ケーキを食べる。
『それでお2人は、いつ頃からそういうプレイを始めたの?』
『そうね。 2人でプレイを始めてからは、もう1年余りになるかしら』
  祥子の答えに美由紀もうなずく。
『あたし達 実は高校の同級生で、その頃からとても仲がよかったんだけど、その頃はまだお互いにこういうことが好きだって知らなかったの。 そんなこと いくら仲のいい友達でも恥ずかしくて言えないものね』
『そりゃそうだね』
『そして3年前の春に高校を出て、お互いに近くの大学に入って、初めの2年間は2人とも大学の寮に入っていたので別々だったけど、去年の4月にこのマンションを借りて2人で一緒に住むようになったの。 そうして1ヶ月程した時、偶然のことから美由紀が縛られるのが好きってわかって、あたしも縛るのが好きって告白して、プレイをするようになったの。 それ以来だから そうね、確かに1年とちょっとね』
『なるほどね』
  私はケーキをゆっくり味わいながら、少し考えにふける。 世の中にはこういうプレイを楽しむ良家のお嬢さんが多数居る ということは、今までもその方面の雑誌で見たことがある。 そして、そういうお嬢さん達と知り合って遊んでみたい、という夢を持っていることも事実である。 しかし 今、この目の前に居る美しい2人のお嬢さんがそうだとは。 しかも 先方から私に積極的に明かしてくるとは。
  祥子が手を止めて、
『ところで三田さんは こういうお遊びはお嫌い?』
と真面目な顔をして私の顔を見る。 美由紀も口を動かすのを止めて、少し心配そうに私の顔をじっとみつめる。 会話の流れからして当然の質問が来た、と感じる。 しかし、何と答えたらよいか、一瞬とまどって聞き返す。
『そうだね。 その質問に今すぐに答えなくてはいけないかい?』
  祥子は笑いながら言う。
『ええ もちろんよ。 あたし達だって三田さんをお友達と見込んで、恥ずかしいのを我慢して こういう姿をお見せし、色々とお話ししたんですもの。 三田さんだって あたし達とお友達というのなら、今すぐに本当のことを答えてくれる義務があるわよ』
  また迷う。 まず最初に『この2人の信頼を裏切ってはいけない』との思いが頭に浮かぶ。 ついで『この2人の素敵なガール・フレンドを失いたくない』と思う。 そして最後に『こう言うことを自然の成行きとして告白できるチャンスは滅多にない。 そしてここで本当のことを言えば、このお嬢さん達が私の多年の夢をかなえさせてくれるかも知れない。 2人がわざわざ提供してくれたこの絶好のチャンスを今逃したら、恐らく後にはもう こういうチャンスは2度と来ないぞ』という焦りにも似た考えが、私の恥ずかしいという気持に打ち克つ。 思い切って一息に言う。
『そうだね、実を言うと僕もこの種の遊びにはすごく興味があるんだ』
  そしてなおも言い足りないような気がして付け加える。
『特に自分が本格的に縛られて、完全に自由を奪われて、いくらもがいてもどうにもならなくされたらどんな気持かな、ってね』
  興奮で息が切れ、声がかすれて小さくなっている。
『まあ 嬉しい』と祥子が歓声を上げる。 『やっぱり あたしの思ってた通りだわ』
  美由紀がほっとした表情になり、また口を動かし始める。 私は とうとう言ってしまった という安堵感と虚脱感に襲われる。
『すると 三田さんはMなのね?』と祥子が念を押す。
『まあ そうだろうね。 Sの気もあることはあると思うけど、確かにMの願望のほうが強そうだね』
『それで 今までに人に縛られたことは?』
『うん、まだ一度もない。 ただし』
  私はちょっと言いよどむ。
『ただし、なあに?』
『うん、中学の頃の無邪気な遊びを別にすればの話だけど』
『まあ、三田さんは中学の頃から縛りをなさってたの』
  祥子が驚いた顔をする。
『いや、僕達の今言っているプレイとは関係のない無邪気な遊びの中で、男の子同士が縛ったり縛られたりをしただけだよ』
『いいわよ、言訳しなくても』
  祥子は笑う。 でもすぐに真面目な顔になってうなずく。
『そうね。 そういえば あたし達の中学でも、男の子の間では遊びで縛ったりすることもあったようね』
『うん、そのようなものだよ。 それで実際 プレイに興味をもつようになってからは 縛られたことはまだ一度もない。 大体そういう話はやたらな人にする訳にはいかないし、そんな話でも出なければ 誰も理由もなしに縛ってくれる筈がないからね』
『そりゃそうね』
  祥子は美由紀と顔を見合せて2人で笑う。 そして祥子が言う。
『あたし達だって 一緒に住むようになってからも 1箇月の間はそんな話は一度も出なかったし、あの偶然の出来事がなかったら まだまだ知らないでいたかも知れないものね』
  美由紀もうなずく。
『でも 僕も気持が抑え切れなくなって、自分で足を縛ったりすることはあるよ』
『・・・』
  祥子と美由紀はまた真剣な顔になって 私の顔を見つめる。 つられて私はもっと突っ込んで明かしたくなる。
『それに時には両手も後ろ手に留めてみたりすることもある。 もちろん一人だけでする遊びだから、必ず自分で外せるようにしてあるのが少し物足りないけど』
『まあ それはご苦労さま』
  祥子は笑う。 美由紀もにっこりする。 ぴんと張っていた座の空気が緩む。
  ちょっと会話が途切れて、祥子がまた 美由紀に紅茶を飲ませ、ケーキの一切れを口に入れてやる。 そして皆が黙って紅茶を飲み、ケーキを食べる。
  ややあって祥子が会話を再開する。
『あたし達はもうお判りだと思うけど、美由紀がMで あたしはとてもSが多いの。 だから あたしと美由紀とはとてもうまくいってるの。 ねえ、美由紀?』
『ええ ほんと』
  美由紀は言葉すくなに肯定する。
『うらやましいね』
『三田さんもよろしかったら ご一緒するわよ。 実は2人だけだと変化が少ないので、どなたかご一緒にプレイして下さる方はないかなって思ってた所なの』
  誘われて大いに心が動く。 このきれいな明るいお嬢さん達と一緒なら、とても楽しくプレイが出来そうな気がする。



  でもふと、ちょっと気になって訊いてみる。
『君達はいつも お2人だけでプレイをしてるのかい?』
  祥子は答える。
『ええ、大概はそうよ』
  しかし、一息 間を置いて付け加える。
『でも実をいうと、タカオという あたし達より一つ年下の男の子が居て、よく遊びに来て プレイの時にも色々と手伝ってくれてるの』
  そして美由紀が補足する。
『それがさっき祥子が言ってた、すぐに車で迎えに来てくれる 従弟の男の子よ』
『ふーん。 タカオ君という男の子ね』
『ええ、フルネームだと「モリヤマ・タカオ」といって、こう書くの』
  祥子は横にあったメモ用紙を1枚とり、きれいな字でさらさらと「森山孝夫」と書いて 私へ差し出す。 私はその名前を見て 『いい名前だな』と思う。 しかし 第3者が居るとなると少し気になる。
『するとプレイを一緒にするとなると、その人も一緒ってわけかい。 少し気になるな』
『大丈夫よ。 その子はあたしと小さい時から姉と弟のように育てられてきたの。 そして あたし達を姉のように慕っていて、あたし達のいうことは何でも心よくやってくれるのよ』
『なるほど それなら安心だね』
  私は一応納得する。 そしてまた訊く。
『それで、その孝夫君っていう人、プレイの方はどうなの』
『そうね。 SでもMでもないみたい。 自分で人を縛ることに興味があるようでもないし、そうかと言って 縛られることが好きでもないみたいなの。 実際 一度、軽く後ろ手に縛ってみたんだけど、あまり楽しくないみたいだったので、それ以来はSやMの役割をやって貰うことは止めて、もっぱらお手伝いだけして貰ってるの』
『ふーん、そうなの』
  私はまたちょっと気になる。
『でも プレイを観るのは嫌いじゃないみたいよ。 今 N大の工業デザイン科の3年生だから、造型の勉強とでも考えてるのかしら』
  そう付け加えて 祥子がおかしそうに笑う。
『なるほど それならいいね。 僕はまた 何か祥子さん達への義務感だけでやってるんじゃないかって心配したけど』
『そんなことないわ。 本人も結構楽しんでるようよ。 実際 世の中には、直接プレイには手を出さずに一歩横で見ていて楽しむ、という人も結構居るんじゃないかしら』
『そうかもね』
『孝夫さんってね』と、また美由紀も説明に加わる。 『背も高く、がっちりしていて、しかもハンサムで、親切で、とてもいい人よ。 とても気軽な人で、あたしもちっとも気がおけないの。 あたしにもこんな弟があったらな、って思うくらいよ』
  私にも孝夫君の好青年ぶりが眼に浮かんでくる。
『うん、お2人の話で僕もすっかり納得した。 是非一度、お会いしたいな』
『そうね。 プレイをご一緒するとなれば、当然 会っていただかなくてはね。 なるべく早い時期に一度、機会をつくって ご紹介するわ』
『うん、お願いする』
『ええ、確かに』
  祥子はそう応えてから、間を置かずに、
『それで、そこまで言って下さったんだから、もう プレイをご一緒していただけると思っていいわね?』
と念を押す。
『そうだね。 今さら断わる訳にはいかないだろうね』
『まあ、嬉しい。 それじゃ、これからよろしく』
  祥子が頭を下げる。 美由紀も嬉しそうに、後ろ手のままで頭を下げる。
『こちらこそ よろしく』と私も頭を下げる。
  私もすっかり嬉しくなる。 これでいよいよ多年の夢が実現しそうだ、と思って胸がふくらむ。 しかもそれが 祥子達に無理に引き込まれて という、私のMの気持にぴったりな形で。
『これでとうとう、僕も君達の目論み通りにプレイに引き込まれてしまったね』
  祥子がいたずらっぽい目をして私を見る。
『ええ そうよ。 でも 三田さんもご満足なんでしょう?』
『うん、そうでないこともないけどね』
『あんな負け惜しみを言って』
  祥子は笑う。 が しかし、すぐに真面目な顔になって、しみじみした調子で言う。
『でも よかったわ。 三田さんがあたしの見込んだ通り プレイに興味をお持ちで、ご一緒していただけることになって。 もしも三田さんが そんな遊びには入りたくないとおっしゃったら、あたし達のこんな姿をお見せした後では、もう恥ずかしくてお付き合いを続ける訳にはいかないものね』
『ええ ほんとに』と美由紀も大きくうなずく。
  私も気分が高揚して、思いを述べずにはいられない気持になる。
『実の所、僕もとても嬉しいんだ。 お2人のお陰で長年の夢がかなえられることになって。 僕一人では恥ずかしくてとてもプレイのことなど人には言い出せず、ましてプレイメイトを見付けるなんて思いもよらなかったものね。 つくづく お2人の決断に感謝するよ』
『感謝するなんて言われると恥ずかしいけど、でもとにかく ほんとによかったわ』
  祥子の言葉に美由紀がまたうなずく。 もうこの2人と心が通い合ったような気がして、うっとりする。
  ふと 我に帰って、もう冷めてしまった紅茶を一口飲む。 そして さっきは突然のことに頭に血が上っていて、美由紀の縛りをあまりよく見てなかったことを思い出す。
『あの、よかったら、手首の縛りをもう一度 近くでよく見せてくれないかな』
『ええ いいわ。 美由紀、見せて差し上げて』
『はい』
  美由紀がまた恥ずかしそうに顔を伏せて立ち、私のすぐ近くに来て背中を向ける。 前からも見えていた 二の腕を抑えつける4重の紐が 背中の結び目できっちり留まっている。 そして腰の後ろでほぼ直角に交差した美由紀の両手首に 別紐が十文字に掛かって縛り合せ、一度結び合せてから、さらに手首の間をくぐって縛り合せの紐を締め上げてもう一度結び目を作り、上に延びて、ぴんと張って胸の紐の結び目に繋がっている。 私は大きな息をついでそれらの紐を眺め回す。
『ふーん。 きっちりした縛りだね。 これでは緩みようがないね』
『ええ、美由紀も出来るだけきっちりした縛りが好きだから。 でも その紐はきっちり締まっているけど、少しも痛くはないのよ。 ね?、美由紀?』
『ええ』
  美由紀が向こうを向いたまま 小声で応える。
『ふーん。 うまいんだね』
  私はもう一度 縛りを眺め直す。
『どうお?。 今度はよくごらんになった?』
『うん 有難う。 もう十分に見せて貰った』
『じゃ もういいわ。 自分の席に戻って』
『はい』
  美由紀が自分の席に戻って椅子の前に立ち、祥子に椅子を押し込んで貰って座る。 眼は恥ずかしそうにやや伏せたままでいる。

1.3 最初のアルバム(1)

第1章 はじめての訪問
04 /21 2017


  ケーキを食べ終える。 祥子が美由紀に言う。
『それじゃ 打合せ通り、例の物をお見せしていいわね?』
『ええ』
  美由紀が顔を伏せ気味にして軽くうなずく。 両手を後ろ手に組んで胸に4筋の白紐を纏った愛らしく小柄な女の子の、そのさりげない動作がすごく魅力的に見える。 しかもその後ろ手は両手首がしっかり縛り合されていて、彼女自身ではどうしようもないんだ、と思うと一層魅力的に見える。
『それでは 新しいプレイメイトへのあたし達の特別なおもてなしとして、面白いものをお見せするから、ちょっと待っててね』
と言い残して、祥子は立って奥へ行く。
『いったい、何を?』と美由紀にきく。 美由紀は『ええ』と応じたきり、にこやかに笑っていて答えない。
  と、すぐに祥子が右手に薄い本のようなものを持って戻ってくる。 そしてそれをちょっと食器戸棚の棚の上にのせ、砂糖壷などを横にやって食卓の中央を空けてから、そこへ置き直す。 見るとそれは1冊のポケット・アルバムで、表紙には海岸の岩山の上の白い灯台を背景にして一羽の白い鳥が舞っている絵が描かれてあり、左下に黒の細いマジックでのきれいな字で No.1 と書いてある。
  祥子は自分の席に座って、笑みを含んだ顔でその鳥を指さして 私に問う。
『この鳥、何だか お判り?』
『そうだね。 海鳥らしいから かもめかな』
『ええ 当たり。 それで かもめって英語で何ていうか ご存知?』
『うん、sea gull だろう?』
『ええ そう。 でも もう一つ名前があるんだけど』
『知らないな』
  祥子と美由紀は顔を見合せて いたずらっぽくにやっと笑う。 そして 祥子が
『英語は美由紀の方が得意だから、お教えしてあげて』とバトンを渡す。 『ええ』と応えて、美由紀がきれいな発音で説明してくれる。
『あの、かもめのことは英語でシー・ミューともいうの。 S、E、A の sea に M、E、W の mew 』
『 sea mew ?。 すると 頭文字をとると?』
『ええ そうなの』とまた祥子が話を引き取る。 『この鳥はあたしと美由紀のイニシャルを並べたものであると同時に、プレイも象徴してるの』
『なるほど。 つまり お2人のプレイのシンボルと言う訳だね』
『そうね、確かにシンボルね』
  祥子はうなずく。
『するとこのアルバムは?』
『ええ そうなの。 この鳥の絵の表紙は、このアルバムがあたし達のプレイの大切な記録です、ということを意味してるの。 そして この No.1 はその記録の第1冊目を表してるの』
『ふーん。 するとこれは、お2人がプレイを始めた頃の記録、という訳だね』
『ええ』
『それは貴重品だ。 それをこの僕に見せてくれるというのかい?』
『ええ そう。 とにかく プレイをご一緒するには、あたし達の今までのプレイの記録を見て貰って、充分に承知しておいて貰った方がいい と思ったの。 それで三田さんがプレイメイトになって下さると決まった時は、これをお見せすることにしてたの』
  美由紀もうなずいている。 私は興奮を抑え切れずに声をはずませる。
『ああ それはどうも有難う。 ほんとに最高のおもてなしだね』
  さっそく食卓の上を簡単に片付け、椅子2つを動かして私の椅子の両側に並べる。 そして祥子は私の左に美由紀を座らせてから 私の右に座る。



『じゃあ 見せて貰うよ』
  私はそう言って表紙をめくる。 このポケット・アルバムはよく見かけるタイプのもので、開くと左ページには左寄りに、右ページには右寄りに3つづつ写真を入れるポケットが縦に並び、中央寄りにメモ欄がある。
  表紙をめくってまず最初に右側にあるページには、白いブラウスと紺のプリーツ・スカートとを身につけ、何気なく両手を後ろ手に組んで、眼をちょっと伏せ気味にして立っている美由紀を、正面、後ろ、横の3方向から撮った写真が並んでいる。 場所はこのLDKの中らしく、背景の右端に窓の白いレースのカーテンとその陰のガラス戸の端とが写っている。 後ろ姿の写真では、後ろ手に交差した両手首に白い紐が何重かに巻きついて縛り合せていることがはっきり判る。 メモ欄の一番上には奇麗な字で、「1985年5月12日(日) 記録ことはじめ」と説明がつけてある。
『これはまだ ごく初めの頃で、2人のプレイを初めて撮った写真なの』と祥子が説明する。
『なるほど、記念すべき写真だね』
  私は写真に見入る。 そして左上の日付を見て、先程の祥子との会話を思い出す。
『1985年5月12日というと 丁度1年あまり前だけど、お2人はこの頃からプレイを始めたんだね?』
『ええ そう』
  祥子はそう答え、笑いながら付け加える。
『ただ 正確に言うと、美由紀に紐を掛けることは この日よりももう一週間ばかり前から始めてたんだけど、初めは美由紀が記録を残すのをとても嫌がってて、この時までは写真をどうしても撮らせなかったの』
『だって』
  美由紀は後ろ手の体をくねらせて拗ねた風を見せる。 そして言う。
『写真を残したら誰に見られるか分からないんですもの。 そんなの 恥ずかしくて嫌だわ』
『うん、もっともだね』
  美由紀は訴えるように続ける。
『ほんとはね、あたし、こういうプレイはあたしと祥子だけの秘密にしておきたかったの。 だからこの写真も本当は、ほかの誰にも見せないからって約束だったのよ』
『でも 孝夫にはもう何回も見せたし、もしもプレイをご一緒して下さることになったら三田さんにもお見せしていいって 昨日言ってたの。 そうよね?、美由紀』
『ええ』
  美由紀はまた顔を伏せ、小さい声で応える。
『うん、有難う』
  私は一言礼を言って、改めて写真を見る。 祥子も顔を寄せてきて言う。
『それにしても、この頃はまだ縛り方もよく知らなくて こわごわとやっと縛った、という感じね』
  美由紀も顔をあげる。 そして懐かしそうに写真を見詰めて言う。
『そう、あの頃はあたしも手を後ろに回しただけで、もう胸がどきどきしちゃってたわ』
『この時は確か、「もっと顔を上げて、カメラをちゃんと見て」って言ったんだけど、美由紀、どうしても駄目だったわね』
『だって』
  美由紀はまたすねたように後ろ手の体をくねらす。
『うん、まあ 無理もないね』
  私はまた一旦うなずき、コメントする。
『それにこの、眼をちょっと伏せた風情なんか、ういういしくって むしろとても佳いよ』
  美由紀が恥ずかしそうにまた下を向く。
『じゃ、次に行くよ』
  1枚めくる。 左のページには まず一番上に、腰の後ろで交差し、きっちり縛り合された2つの手首の拡大写真がある。
『これは今の縛りを大きく撮った写真よ』と祥子が説明する。
『ふーん』
  私はつくづくと写真を眺める。 縦に3重の白い紐が巻きつき縛り合せている両手首が 少しくびれているように見えるのが印象的である。
『この時の縛りは相当きつかったようだね』
『ええ まだ 縛り加減がよく分かってなかったから、美由紀も少しは痛かったかもね』
『ええ そうよ』と美由紀が勢いこむ。 『祥子に「痛い」って訴えても、「そんなに痛い筈ないわよ。 それに少しくらい痛いのは縛りでは当然だから我慢なさい」って、相手にしてくれないの。 でも ほんとに痛かったのよ。 今でも憶えてるわ』
『あたし そんなこと言ったかしら』
『まあ ひどい』
  美由紀が声をあげる。 そして 自分の声にびっくりしたかのように笑い出す。 私と祥子もつられて笑う。
『それで 今はそんなに痛くなったりはしないんだろう?』
『ええ、今は祥子はとても縛り方が上手になって、痛いことはほとんどなくなったわ。 だけどこの時は痛いこともあって、縛られてる時間がとても長く感じられたの』
『でも 長いと言っても、縛り終ってからほどき始めるまでの時間は、確か 精々10分位のものだったわよ』
『そうね。 いくら痛かったと言っても、今なら何でもない時間よね。 それに手だけですものね』
  美由紀は感慨深げにまた写真を見詰める。
『それで 手首に紐の跡がつかなかったかい?』
『ええ、この時の紐の跡は幾日も消えなくて困ったわ。 外へ出るとき、いつも手首の隠れる服しか着られなくて』
『でも』と祥子が笑いながら言う。 『三田さんはよくそんなことをご存知ね。 経験があるのね?』
『まあね』
  私はにやにやする。 そして その下の写真に眼を移して訊く。
『ところで このパンタロンをはいた写真も同じ時のかい?』
『まあ ずるい。 逃げたのね』
  祥子はちょっと私をにらむ振りをする。 でもすぐにこちらの話にのってくる。
『ええ そう。 せっかくだから もう少し違った姿のも写しておきましょう、というので、手首の紐には手をつけずに、ちょっと胸にも紐を掛け、スカートをパンタロンにはき替えさせて撮ったの』
  そこには やはり後ろ手で、乳房の上下に2重づつの白い紐がかかって胸と二の腕とを締めつけ、スカートがえんじ色のパンタロンに替わった姿の美由紀を、前と後ろとから撮った2枚の写真が並んでいる。 顔はやっぱりちょっと伏せ気味にしている。
  美由紀がまた訴えるように言う。
『ほんとは最初、さっきの写真だけで終りにする予定だったの。 それを 「ねえ、いいでしょう?」って あたしの返事もきかないで、勝手に胸も縛って パンタロンをはかせて撮っちゃったのよ』
『でも この格好はそれまでも何回かしたことがあるから、どうってことはないんじゃない?。 それに美由紀だって けっこう協力的だったわよ』
『でも 納得してやるのとは大分違うわ。 それにこの格好で写真を撮るなんて承知してなかったわよ。 もう後ろ手に縛られてるから逆らっても無駄だと思って協力したけど』
『そんなの同じことよ。 ね?、三田さん?』
『さあ どうかな』
  私はにやにやする。 そして話を移す。
『とにかく この胸の紐もとても魅力的だよ。 それにパンタロン姿というのもとてもいいものだね』
  祥子がすぐに乗ってくる。
『そうね。 美由紀は女の子らしいからってスカートの方が好きらしいけど、パンタロンの方が吊るときなんかは便利だし』
『え?』。 私は思わず祥子の顔を見る。 『君達は吊りプレイもするのかい?』
『ええ、後の方に出てくるわ』
『ふーん、それは楽しみだな』
  そのまま 右ページの写真に移る。



  右のページには 下着姿で緊縛された美由紀の写真3枚が上下に並んでいる。
『ああ、今度は下着だけの姿だね』
『ええ そう。 これはここのメモにあるように、今までのから丁度2週間後の日曜日のプレイの写真なの』
  祥子の指につられてメモ欄を見ると、一番上に「1985年5月26日(日)」とあり、それに続いて「初めての下着でのプレイ」と説明がついている。
『なるほど 2週間後か。 その間に大分進歩したようだね』
『そうね。 実をいうと その間はあまりプレイが出来なかったんだけど、心構えの上では進歩したかもね。 とにかくこれは 下着姿でプレイをすることを美由紀が初めて承知した時の写真なの』
『ふーん。 初めてというと、それまでは承知しなかった訳かい?』
『ええ。 どうしても嫌だと言ってたの』
『だって』
  美由紀は後ろ手のままで また体をくねらせる。
『うん、それは僕にも解るような気がするね。 でも何でまた 急に気が変って、承知したのかな』
  私はちょっと首をひねる。
『そうね』と祥子が受けて言う。 『この時は確か、一つ前の日曜日には何か都合が悪くてプレイが出来なかったので、これが2週間ぶりの本格的プレイだったの。 その間も 夜、寝る前なんかにちょこちょこと軽く縛ったりはしてたけど、美由紀にはそれじゃ物足りなくって 欲求不満がたまってたんじゃないかしら。 だからあたしが今日は下着姿でやってみましょうって誘ったら、急に強い刺激が欲しくなって承知する気にもなったんじゃないかと思うけど』
『違うわよ。 欲求不満なんかじゃないわよ』とまた美由紀が反論する。 『あたし、だんだん縛りにも慣れてきたし、それに祥子さんの熱心さに負けて、もうそろそろ下着でプレイしてもいいな って思い始めてた時だったのよ』
『まあ どちらでもいいよ。 とにかく お2人のプレイがそれだけ進歩したんだね』
  私はとりあえずそう取りなして、改めて3枚の写真を次々と眺める。 そこにはすっきりしたベージュ色のボディス-ツと肌色のパンティストッキング姿で、後ろ手に交差した両手首をきっちりと縛り合され、胸にも紐が4重にかけられて立っている美由紀を、前、後ろ、右斜め前の3方向から撮った写真3枚が並んでいる。 今度は足下に畳が見えるから、この奥の2人の部屋のどちらかであろう。 後ろに見える白い壁には、岬の岩に白い鳥が何羽も飛んでいる絵のカレンダーが下がっている。 あれも「かもめ」かな。
  後ろから見た写真では、交差した両手首には今度は縦横十文字に紐がかかって縛り合せてあり、さらに手首の間を紐がくぐって縛り合せの紐を絞っているように見える。 そしてその紐の先は上に延びて胸と二の腕とを締めあげている4重の紐の結び目に繋がり、ぴんと張って手首を少し引き上げている。
  3枚の写真を通じて すらりとした脚や体の線がとても美しい。 それに今度はまっすぐ正面を見ている美由紀の、ちょっと笑みを含んだ顔の表情がとても魅力的に見える。 思わず見とれる。
『なるほど いいね』
  そして改めて祥子に話しかける。
『でも とにかく下着姿っていいものだね』
『そうね。 やっぱりスカートやパンタロンを着けてるよりも、下着だけの方が感じが出るわね』
『それに 手首の縛りも進化したし、しかも胸の紐に繋がれて引き上げられているし。 これが今の美由紀さんと同じ縛りなのかな』
  私は体を反らせて美由紀の背中の紐の繋がりをちらっと見て 元の姿勢に戻る。 美由紀がまた恥ずかしそうに顔を伏せる。
  祥子は言う。
『ええ そう。 この縛り方は美由紀への負担が比較的少なくて しかもきっちり決まるので、今でもよく使ってるの』
  そして感心したように付け加える。
『三田さんって観察が緻密ね。 よっぽど縛りに関心があるのね』
『それほどでもないけどね』
  私と祥子は顔を見合せて笑う。 美由紀も顔を上げて笑う。
  祥子は改めて懐かしそうに写真に見入る。
『こうして二の腕を抑えつけて、手首を引き上げて背中の結び目に繋ぐと、手の動きもほとんどなくなって 確かに緊縛した という感じになってきたわね』
『とにかく 美しい胸や脚の線がよく出てて、すごく素敵だよ。 それに軽く笑みを含んでまっすぐ正面を見ている顔が また何とも言えず魅力的だね』
『まあ』
  美由紀が赤くなって また下を向く。
  もうこの頃になると 私もこの場の雰囲気にすっかり溶け込んで、2人との間に何の心のへだたりも感じなくなり、口も軽くなる。 2人も私の前で軽い口喧嘩をしたりしてすっかり心を許してくれてるように見える。 何となく浮き浮きしてくる。
『この時は久しぶりだったので 2人とも張り切っていて、この後にも色々なプレイをしたの。 その写真がまだこの後につづくけど』と祥子が言う。
『ああ、そりゃ急いで見せて貰わなきゃ』と私はまた1枚めくる。
  新しいページになる。 今度は 前と同じ下着、胸の紐、後ろ手姿で両足首も揃えて縛り合されて立っている美由紀を 前と後ろとから撮った写真2枚が続く。 そして3枚目は同じ姿の正面の写真だが、口からうなじにかけて肌色のものが強く巻き付いて顔の下半分を覆っている。
『ふーん、美由紀さん とうとう足も縛られちゃったか』
『そうね』と祥子。 『それまでは何故か 足を縛ったことはほとんどなかったわね。 手と胸だけで充分満足してたのね』
  ついで美由紀に訊く。
『それでどうだった?。 初めて足を縛られたときのご感想は』
『ええ そうね』
  美由紀はちょっと思い出すかのように言葉を切る。 そして改めて言う。
『ええ、もう自由に歩くことも出来ないと思うと じーんとして』
『うん、解るような気がするね。 それに 次にはいよいよ猿ぐつわも登場するし、ますます拘束がきびしくなるね』
『ええ そう。 この時はあたしも気が入っていたけど、美由紀も大分熱くなってたようだったわ』
  美由紀が恥ずかしそうに下を向く。
『所でこの、顔に巻き付けてある細長い布みたいなものは何?』
『古いパンティストッキング。 でも ちゃんと洗ってある品よ。 それから口の中にも古いパンティストッキングが一本押し込んであるの』
『ふーん、パンティストッキングね。 あれは随分ふわふわしてるね。 口の中一杯に拡がって』
『まあ』と祥子が驚いたような声を出す。 『三田さん よく御存知ね。 経験がおありなのね』
『あ、いけない。 余計なことをしゃべっちゃった』
  私は両手で口を抑える。 2人がどっと笑う。
『でも僕のは ただ自分で口に詰めて上を何かで抑えただけで、取りたくなれば何時でも取れるから 猿ぐつわとも言えないけどね』
『まあ そうかもね。 でも三田さんって ほんとに色々な経験がおありのようで、頼もしいわ』
『まあね』
  つづいて美由紀に向かって訊く。
『それで この時の猿ぐつわのご感想は?』
『ええ』
  美由紀はひとつうなずく。 そして言う。
『あの、猿ぐつわって この時初めてかけられたんだけど、とても奇妙な気持になったのを今でも憶えてるわ。 もう 手はもちろん、足までも縛られていて動くことも出来ないし、その上 何も訴えることも出来ない って思うと、体の力がすうっと抜けたようになって』
『そうよ』と祥子が言う。 『美由紀はそういう時はすぐにうっとりした顔になるの。 よっぽど気持がいいのね』
『知らないっ』
  美由紀はまた少しすねてみせる。
  右ページには、まず同じ姿の美由紀が畳の上にうつぶせになって横たわり、足も伸ばして右ほおを畳につけた顔をこちらに向けている写真が1枚ある。 そしてそれに続いて、うつぶせのまま膝を曲げ、両足首の縛りから紐がのびて、背中にある胸の紐の結び目にぐっと引き付けてつながれた、軽い逆えび縛りの写真が2枚ある。 そのうちの1枚では背中の結び目から手首の縛りにかけての部分が拡大されていて、足首からの紐の繋がり具合がよくわかる。
『うん、いいね。 ますます佳境に入ったようだね。 今度は畳の上に寝かせてのプレイかい』
『ええ そう。 こういう寝かせての本格的な縛りは この時に初めてやったのね。 特に逆えびは』
『なるほどね。 でも 逆えびっていい縛りだね。 まるで芋虫のように転がされて 少しづつ体をゆらすようにしか動けなくて、本当に拘束された気がするね』
『というと、三田さんはこれも経験がおありなのね?』
『あ、いけない。 また 余計なことをしゃべっちゃった』
  私はまた口を抑える。 今度は私も加えて3人でどっと笑う。
『美由紀ってね。 このように口もふさがれ、行動の自由が無くなれば無くなる程 いい気持になるみたいなの。 ね?美由紀?』
『ええ そう。 もうほんとに祥子の思い通りにされて あたし自身ではどうにもならないんだ と思うと、何とも言えない気持になるの』
  美由紀は恥ずかしそうに目を伏せる。
『うん、本当のMなんだね。 解るな』
『そうね』と祥子が言う。 『ほんとに三田さんって、美由紀の気持が何でも解るのね』
『うん そうだね。 それも言葉だけじゃなくて、本当に解るような気がするんだ』
『つまり 三田さんも、美由紀と同じくらいに強いMだ と言うことなのかしら』
『うん そうかな。 僕自身にも分らないけど』
『とにかく これからが楽しみね』
  祥子は大きくうなずく。



  黙ってまた一枚めくる。
『ああ、今度は祥子さんの縛りか』
『ええ そう。 これは すぐ前の写真と同じ時に、今のと同じでいいから縛ってごらんなさい と言って縛らせたの』
『なるほど、お揃いの縛りという訳だね』
  確かに左ページには 祥子が前の美由紀と同じような下着姿で後ろ手に縛られ、胸に4重の紐をかけられ、両足首も揃えて縛り合されて立っている所を、前、後ろ、横の3方向から撮った写真3枚が並ぶ。 また 右ページには祥子が同じ姿で横座りしてこちらを見ている写真と、畳の上でうつぶせ、軽い逆えび縛りの姿になっている所を 横と斜め前から撮った写真2枚とが並ぶ。 逆えびは美由紀のより少し深いようで、膝が少し浮き上ってみえる。
『それに下着までお揃いのようだね』
『よく分かるわね』
  祥子は笑う。 そして説明を加える。
『確かにあたしと美由紀は大概 同じ下着を買ってるの。 ただし ボデイスーツなどはサイズは違うけど』
『そうだね。 君達2人じゃ サイズも同じ という訳にはいかないだろうね』
  そう言いながら 私は内心 自分用に同じ下着を揃えてみたくなる。 でも 私の体に合うサイズのボデイスーツなんて売ってるかしら。 ただし このような考えは まだ この2人にも言えない秘密だが。
  話題を縛りに戻す。
『それで これ みんな美由紀さんが縛ったのかい?。 なかなかうまいじゃないか』
『ええ』
  美由紀は下を向いて小さな声で応える。
『でも』と祥子が少し不満気に言う。 『これは あたしが縛ったのと同じように見えても 締まり方が大分違うのよ。 この時も時間だけはかかったけど、その割にはあまりよく締まってないの』
『そうかな。 でも この逆えびなんかは ずいぶん深い縛りになってるように見えるけど』
『ええ そうね。 でも この逆えびは、あたしが精一杯そり身になって紐を結び付けさせて、やっとこれだけになったの。 その時もあたしが もっと足首からの紐を強くひっぱって手首に結びつけるようにって言ったんだけど、もう これ以上には出来ないっていうのよ』
『でも だんだん上手になるだろう?』
『ええ でも 縛る方はちっとも本気にならないから、進歩がないの』
『そんなことないわよ』
  美由紀が不自由な上半身をゆすって異議を称える。 しかし 祥子は 『まあ いいわよ』と言って取り合わない。 話を転じて また私が訊く。
『それで この時は猿ぐつわは掛けなかったのかい?』
『だって』と祥子はすまして言う。 『猿ぐつわをかけたら、あたしが美由紀に指示出来ないじゃない』
『縛られる身で ずいぶん威張ってるね』
『そうね』
  祥子自身のそれをあっさり肯定する言葉に 3人で大きく笑う。
  ひとしきり笑った後で、祥子が真顔になって言う。
『三田さんは笑うけど、美由紀はほんとにM専門で、あたしが指示しないと 責めをおろか、満足な縛りひとつ出来ないのよ』
『ええ』
  美由紀もそれを認めるかのようにうなずく。
『その点 あたしは、三田さんならまともにあたしを責めてくれるんじゃないかって ひそかに期待してるんだけど』
『そうだね。 でも ご期待に副えるかな。 祥子さんの基準は大分高そうだからな』
  そして私はこれらの会話を通して心に浮かんだ疑問をぶつけてみる。
『それで 祥子さんはS専門だとばかり思ってたけど、時には責められてみたくなることもあるのかい?』
『ええ それはあるわ』と祥子は笑いながら答える。 『あんまりはないけど、たまにはね』

1.4 最初のアルバム(2)

第1章 はじめての訪問
04 /22 2017


  また1枚めくる。
  左ページの初めの2枚は紐を掛けられた美由紀を前と後ろとから撮った写真である。 そこでは白のブラウスと紺のプリーツ・スカートを着けた美由紀が、後ろ手・胸紐の緊縛姿で足首も縛り合されて まっすぐ立っている。 正面を向いた顔には前よりもさらに明るい笑みを見せている。
  そして3枚目には同じ姿の美由紀とその脇を右手で抱えた祥子とが ともに笑顔で並んで写っている。 写真の右側のメモ欄の一番上には「1985年6月15日(土) 孝夫を呼んで」とある。
『これは急に思い立って、孝夫に初めてあたし達のプレイのことを話して、仲間に入ってもらった時の写真』と祥子が説明する。
『ふーん』
  私は祥子の顔を見る。
『また何で急に思い立ったの。 お2人だけで楽しんでいるプレイの秘密をほかの人に明かすのは 相当大変な話だったろう?』
『ええ そうね。 とても大きな決断が要ったわね』
  祥子はそう言ってうなずき、説明を加える。
『そうなったのも実はね、その次の日 つまり日曜日に、あたし達と孝夫の3人でハイキングに行くことになってたからなの。 それで美由紀と2人で話をしているうちに、どうせなら手を縛ってハイキングをしたらもっと楽しいんじゃないの、ということになって。 それには孝夫にも知ってて貰わないといけないし、もともと美由紀と2人で 孝夫にもプレイを手伝って貰えたらいいなあって言ってたので、丁度いい機会だからこの際 思い切ってあたし達のプレイのことを明かして 何とか仲間に入って貰いましょうよ、と言うことになったの』
『ふーん』
『でも』と美由紀が不自由な上半身をくねらせて言う。 『あたし とっても恥ずかしかったわ』
『ええ そうね』と祥子も言う。 『あたしだって それまでは清純な女の子だと思っている従弟に こんなプレイをしてるって知られるのには とても抵抗があったわ。 でも 吊りなんかはあたし達だけではどうしても出来なくて、どうしても男の子の仲間が欲しかったの。 そしてその候補としては孝夫しか思い付かなかったし、それにあたしは孝夫にとても信用があって あたしの言うことは大概 何でもきいてくれてたので 今度の秘密も守ってくれると思って、恥ずかしいのを我慢して決心したの』
『ふーん』
  私にも2人の気持が想像つく。
『それでこの日に孝夫という人に明かした、という訳なのかい』
『ええ そう。 それも急に明かすと刺激が強すぎるだろうというので、まずは「ハイキングの打ち合せ」ということでここに来て貰って、雑談の中で縛りの出てくる映画の話などをしてそれとなく匂わせて、その後で 実はあたし達も実際に縛りをしたことがあるのよ って話を進めたの』
『なるほど うまいね。 でも その孝夫という人、さぞびっくりしたろうね。 僕みたいにそれなりの関心をもってた訳じゃないだろうから』
『ええ そうらしいわ。 最初のうちは孝夫はあたしの言うことをほんとにしなかったけど、このアルバムの最初のページの3枚の写真を見せたらひどくショックを感じたらしくてね。 「美由紀さんって ほんとに縛られたことがあったんですか」って大きな声で言って』
  祥子はそこでその時の孝夫の顔を思い出してか、可笑しそうにちょっと笑う。 しかし 美由紀は
『でも あの時はほんとに恥ずかしかったわ』
と後ろ手の身体の肩をすくめる。
  祥子は続ける。
『そうね。 あたしも一瞬ひるんだけど、こうなったらもう何が何でも説得しなければと思って、恥ずかしいのを我慢して 「こういうプレイもあたし達にとってはとても楽しいのよ」って説明して、その後の写真も順々に見せていったの』
『・・・』
『でも 孝夫は最初の反応の割には早く慣れてくれたみたいで、あたしの話を落着いて聞いてくれて。 それでもいよいよ最後になって、実地に美由紀を縛ってこの写真の姿を見せた時は 大分興奮してたようだったけど』
『そりゃそうだろうな』
  私はうなずく。 そしてその写真に見入る。 この写真の中にある縛られた姿の美由紀の実物を 興奮を抑えてじっと見詰めている孝夫の姿が 眼に見えるような気がする。
『それで お2人とも精一杯 明るい顔をしてるんだね』
『ええ そうよ。 そうしなければ 「楽しいプレイ」というデモンストレーションにならないもの』
  祥子は明るく笑う。 そして続ける。
『そしてとにかく孝夫も、あたし達が明るく楽しくプレイをしているのを見ていて、しかもその後で後ぐされなく平生のあたし達に戻るのを見て、それがそんなに不健全なものじゃないって納得してくれたらしいのね。 それで 「まだよく解らないけど、あたし達がほんとに楽しめるのなら プレイでも何でもお手伝いします」って言ってくれたの。 あたし 嬉しかったわ』
『うん よかったね。 まさに一大決心をした甲斐があった という訳だね』
『ええ そう。 それ以来 孝夫にはプレイの度に色々と手伝って貰って、とても助かってるの』
『なるほどね』
  私は改めてもう一度、その意義深い写真にじっと見入る。 そしてまず スカート姿で緊縛されている美由紀に言いようにないいとしさを感じる。
『同じ縛りでも、スカート姿って ほんとに女の子の優しさが出ていていいね。 たまらない可憐さを感じるよ』
『ね、そうでしょう?。 スカートの方がいいわよね?』
  そう言って 美由紀が我が意を得たりというような顔をする。
『うん そうだね。 でも プレイでは状況に応じて使い分けた方がいいのかな』
『そりゃそうよ』
  今度は祥子が断定的に言う。 3人でまた笑う。
  ついで私は3枚目の 美由紀と祥子とが並んで写っている写真に目を移し、指さす。
『ところでこれは その孝夫君がシャッターを押したんだね』
『ええ そう。 自分で三脚を使って撮るのはまだ慣れてなかったので、これが緊縛した美由紀と並んで撮った初めての写真なの。 こういう写真を撮れるだけでも 三田さんが居てくれると助かるわ』
『なるほどね』
  右ページに移る。 そこにはまず 美由紀が同じ姿で猿ぐつわを掛けられて立っている写真1枚がある。 そして 猿ぐつわを外された美由紀が椅子に座って祥子が紅茶を飲ませている写真と ケーキを口に運んでいる写真とが並ぶ。 いずれもとても佳い瞬間をとらえていて、祥子も美由紀も生き生きとした顔をしている。
『これ、ご苦労さまでした、って美由紀を慰労している所。 こういう場面は孝夫が横に居て撮ってくれないと、残すのはちょっと無理よね。 それに孝夫は写真が趣味でとても上手なの』
『そうだね。 確かにお2人のとても佳い表情を捕えていて、いい写真だね』
  私は写真の中の美由紀が少し羨ましくなる。



  また1枚めくる。 今度はまず どこかの小さな駅を背景に、ナップサックを背負った祥子と美由紀と、もう1人、男の子との3人が並んで、前に手を組んで立っている写真である。 メモ欄の始めには「1985年6月16日(日) G高原のハイキング」と書いてある。
『これ、前の写真の次の日、3人でG高原にハイキングに行った時の写真。 そして これがさっき言ってた あたしのいとこの孝夫』と祥子が男の子を指さす。
『ふーん。 よさそうな人だね。 背がだいぶ高いようだけど どの位あるの?』
『そうね、180センチ位かしら』
『僕が174センチだから 大分高いね。 たのもしそうだね』
『ええ その向きでは とても頼りになるわね』
  そのあと、遠く連なる山並みを背景に 山道の端に並んで立つ美由紀と祥子の写真と、美由紀と孝夫の写真が続く。 どちらも正面から撮った写真で、美由紀はいつも両手を腰の後ろに回している。 その写真を指さして祥子が説明する。
『この時は 歩き始めにちょっと横のやぶの陰に入って、前からの打合せ通りに ナップサックを背負ったままで美由紀の手首を後ろ手に縛り合せて、その後 ずっとそのまま歩いたの』
『なるほど、それで美由紀さんは いつも手を後ろに回してるんだね』
『ええ そう。 手が丁度ナップサックの下に隠れるようにしておいたから 人には気付かれなかったと思うけど』
『なるほど 面白いアイデアだね』
『でもあたし』と美由紀が後ろ手の体をくねらせて言う。 『最初のうちはずいぶん緊張してたわ。 そのうちに少し慣れたけど』
『そうね』と祥子も言う。 『それまでプレイは家の中だけでやってたのが、初めて野外で手首だけでも後ろ手に縛られて歩いたんだから、他の人には判らない筈だ と思っていても、 緊張するのも無理はないわね。 でも そのスリルを味わいたくて、このプレイをすることにしたんじゃなかったかしら』
『ええ それはそうだけど』
  美由紀は釈然としない顔をしてる。
  右側の最初の写真に移る。 それは美由紀の後ろ姿で、祥子がナップサックを少し持ち上げて 美由紀の後ろ手首の縛りがよく見えるようにしている。
『ふーん』
  私はその写真に見入る。 そしてコメントする。
『なるほど 面白いね。 手首は確かに縛り合せてあります、という証拠写真だね』
『ええ そう。 三田さんはこういうプレイもお好きなようね。 一度 今度は三田さんに後ろ手になって貰って、ハイキングをご一緒しましょうか』
『うん 興味はあるね。 でもまあ そのうちにね』
  つぎには 美由紀が坂道をおずおずと下っていくのを 下からと斜め前から撮った2枚の写真が並んでいる。
『美由紀さん、何だか心細そうだね』
『ええ』
  美由紀がうなずく。 そして言う。
『あの、両手が後ろ手に縛られてて使えないと、登りは汗をふけないのが辛いくらいで特にどうってことはないけど、急な下りはバランスがとれなくて転びそうで怖いの』
『まあ それだからプレイになるんだけどね』
  祥子はそう言って笑う。 しかし すぐに真顔になってつけ加える。
『実はこういう場面だと 横に居るものがとても緊張するものなのね。 万が一 転びそうになったら、すぐに支えないといけないから』
『なるほど そんなものかな』
  また1枚めくる。
  左側のページには3人が雑木林の中でお弁当をひろげている写真3枚が並んでいる。 最初の1枚は美由紀を真ん中に それを挟むように 左に祥子、右に孝夫と並んで、こちらを向いて草に腰を下ろしている所の写真である。 そして 美由紀は相変らず両手を後ろに回し、祥子と孝夫はそれぞれ両手、右手にカップを一つづつ持って高く捧げている。 美由紀も肩にナップサックの紐が見えないから、下ろして空身になっているらしい。
『これは雑木林の中で お弁当の前にまずは乾杯している所。 美由紀のカップもあたしが捧げてるの』と祥子が説明する。
『ああ そう。 それでこれは 誰かに撮ってもらったのかい』
『まさか。 念のため三脚をもって行って、セルフ・タイマーで写したのよ』
『ああ なるほど。 でも それにしてもこんな所を人に見られたら 変に思われないかな』
『ええ そうね。 そう思って路からは10メートルばかり横に入った奥に場所を決めて、美由紀は路の方を向くようにしてたんだけど、それでもやはり 人が通ると少し緊張したわね』
  2枚目では美由紀が祥子のさし出すサンドイッチを口で受け入れ、3枚目ではカップから紅茶らしきものを飲ませて貰っている。 また見とれ、思わず漏らす。
『楽しそうだね』
  祥子が笑いながら言う。
『三田さんはこういうのもお好きなようね。 そのうちにやって差し上げましょうか』
『うん、そうだね』
  私も笑いながら曖昧に応え、次の興味に移る。
『それで ここでは美由紀さんのナップサックを下ろしたようだけど、どうやって下したの?。 縛ったままじゃ無理だろう?』
『ええ でも、出来ないことじゃないわ。 実際 この時は ナップサックの紐を抜いて下ろしたの。 ちょっと面倒だったけど』
『うん、なるほど。 そうすれば 縛りを解かずに下せる訳か。 それにしても面倒見がいいね』
『そうね』
  また3人で顔を見合せて笑う。
  右側のページには、後ろ手のままで 太さ10センチほどの小楢らしい木に縛り付けられた美由紀を、正面と真横から撮った写真2枚並んでいる。 胸が立ち木と一緒に白い紐で4重に巻かれて締めつけられているほかに、足首も揃えて縛り合され、根元に縛りつけられている。 紐はいずれもかなりきつそうである。
『ああ、立ち木縛りだね。 かなり強烈だね』
『ええ、これは あたし達が今までに唯一、立ち木に縛り付けて撮った写真。 野外でこういう写真を撮るのは なかなか適当な場所がなくて難しいわね』
『そうだね、人に見られると困るからね』
『ええ』
『それでこれは どんな場所で撮ったの?』
『ええ これは すぐ前にお弁当を食べた場所のすぐ横で、さらに少し林の中に入ったところ。 でも普通の路からも少し見えるので、孝夫に陰になってもらってて 美由紀に後ろ手のまま立たして紐を掛けたの。 急いで撮ったのだけど 案外うまく写ってるわね』
『そうだね、いい記念だね。 大分スリルも味わえたろうし』
『ええ そうね』
  祥子がうなずく。 そして美由紀が懐かしそうに言う。
『ほんとにあの時は、縛った紐がきついのよりも 誰かに見付からないかの方が心配で、気が気じゃなかったわ』
『うん、解る。 でも よく やる気になったね』
『ええ、祥子が、このマンションには適当な柱がなくて柱縛りが出来ないから是非やりたい、って言うもので、仕方なく承知したんだけど』
  そこで祥子が笑いながら口を挟む。
『でも 美由紀も結構楽しんでいたじゃない』
『そんなことないわ』
  美由紀が後ろ手の体をゆすって異議を唱える。
  そのような2人のやり取りを見て、私は改めて感心する。
『すぐにそういう言いあいを始めるなんて、お2人は仲がいいんだね。 ほんとに姉妹以上だね』
『ほんとにそうね』
  2人とも声を出して笑う。
  そのページのもう一枚は、また駅の前でナップサックを背負ったままの3人が並んだ写真である。 美由紀は相変らず後ろ手のままで写っている。
『ああ また、駅だね。 美由紀さんは相変らず 後ろ手のようだけど』
『ええ そう。 どこか美由紀の紐をほどくのに適当な場所を と思っているうちに、気がついたら駅まで来ちゃってたの』
『ええ。 あたしもどこで紐を解いて貰えるかと思っているうちに、とうとう駅まで行ってしまって、そこでもほんとに解いてもらえるかどうか、とても心配だったわ』
『そう言えば、駅でも人に見られない場所を探すのにちょっと苦労をしたわね。 結局、駅の建物の陰で、孝夫に陰になってもらっててほどいたけど。 懐かしいわね』
  祥子も改めて写真を見入る。
『それで この写真はどうやって撮ったの?』
『ええ これは、駅に着いたときに そこに居た人にちょっとシャッターを押してもらったの』
『でも 美由紀さんはまだ 後ろ手に縛ったままだったんだろう?。 大分大胆だね』
『そうね。 この時にはもう大分馴れたから。 美由紀も そしてほかの2人もね』
  もう一度 写真を見る。 そして眼を上げて美由紀に訊く。
『それで結局 この時は、美由紀さんは何時間 縛られてたの?』
『ええ、朝の9時頃から夕方の4時過ぎまでだったから、そうね 7時間あまりね。 あたし こんなに長い時間 縛られてたの初めてだったから、すごく腕がだるくなって』
  美由紀はその時の感じを思い出したのか、後ろ手のままで肩を動かす。
『それは大変だったね。 でも いい思い出だね』
『ええ』
  美由紀はうなずく。



  また一枚めくる。
  まず、美由紀が下着姿で縛られて 前と後ろから撮られた写真2枚がある。 前から撮った写真では、まず胸の紐が乳房のふくらみを2つのカップのように縛り分け、その中央の結び目から上にのびた紐が両肩から後ろに回っており、また両方の二の腕が胸の紐で肘のすぐ上を脇に厳しく縛り付けられ、さらに割紐がそれをきつく絞って留めている。 一方 後ろ姿の写真では、肘を曲げて反平行に揃えた両手首がきっちりと縛り合され、さらに肩から降りてきた紐でぐっと引き上げられて、肘から先が水平よりも幾分上に凸の、両手首を頂点とするごく扁平な山型を作っている。 横のメモ欄の最初には 「1985年6月23日(日) 高手小手ことはじめ」と書いてある。
  祥子が説明する。
『これ、偶然に見付けた雑誌に高手小手の縛り方が詳しく書いてあったので、さっそくやってみたの。 とてもきっちり締って 気持よく縛る事が出来るので、それからは専ら愛用しているの』
『なるほど、きっちり決まってるね。 それに 手首の縛り方も今までのとは違うんだね』
『ええ、こうしないと 高手小手に引き上げられないの』
『なるほど』
  そのページの3枚目からは、両手首を後ろ手に縛り合せる所から始めて、美由紀を高手小手にきっちり縛り上げる過程の写真が並んでいる。 私は興奮を覚えながら順序を追って見ていく。
『いいね。 高手小手って こうやって縛るものなの』
『ええ、色々と変形はあるようだけど、大体はこの縛り方が標準らしいわね』
『なるほどね』
  私はなおも写真に見入る。
『あたし、これでも高手小手はずいぶん研究したのよ。 この写真の頃はまだ始めたばかりで ぎこちなかったけど』と祥子がちょっと自慢気に言う。
『ええ そう』と美由紀もうなずく。 『最初の頃は とても痛かったり、ゆるかったりしたけど、最近はすっかり上手になって、ちっとも痛くなくて しかもきちっと締っていて、全然ゆるまなくて とても気持がいいの』
『つまり、美由紀さんもすっかりお気に入りの縛り、という訳だね』
『ええ』
  美由紀はまた恥ずかしそうに下を向く。
『三田さんだって きっと気に入って下さるわよ』と祥子は言う。
『うん そうかな』
  私はそう応えて 先に進む。
  縛り方の説明写真はもう一枚めくった最後のページの2枚目まで続く。 そして アルバムはまた1枚の、畳にうつぶせになった美由紀の「逆えび」の写真で終っている。 今度の逆えびはかなり強く、美由紀が体をぐっと反らせ、ひざが畳から10センチ近くも浮き上っているように見える。 右の頬を畳にぺたっとつけ、口を軽くあけ、眼を閉じてこちらを向いた美由紀の顔がたまらなく愛しく見える。
  祥子がその写真を指差して言う。
『これは高手小手の応用。 逆えびはやはり高手小手と組み合せた方が きっちり決まって気持がいいわね』
  美由紀も懐かしそうに写真を見て 『ええ、そうね』とうなずく。 しかし 続けて言う。
『でも こんなにきつい反り身にされたの この時が初めてだったから、とても辛かったわ。 それに高手小手がよく決まり過ぎて 息も楽じゃなかったし』
『でもね』と祥子がちょっと笑う。 『この美由紀のうっとりとした顔をみると、とても辛そうには見えないけど』
『そんなことないわよ』
  美由紀がまた体をくねらせてすねる。
  私はちょっと体を後ろに引いて、2人の顔を左右に見て笑う。
『ほらまた始まった。 お2人ってほんとに仲がいいんだね』
『そうね』
  2人も顔を見合せて、また声を出して笑う。
  最後の写真をもう一度見直す。 そして私は今までに見た写真の数々を思い返し、その進歩の急ピッチぶりに改めて感心する。
『それにしてもお2人は 始めてから1月半ばかりで高手小手まで行ったわけだね。 ずいぶんと進歩が速いね』
『そう言えばそうね』と祥子。 『それまで2人ともが やりたい やりたい って思っていて出来なかったのが、急に出来るようになって 堰を切って流れ出した、という訳かしら』
『そうかもね』
  美由紀も大きくうなずく。

さおりん

これは若い男女4人(途中からは6人)で結成した「かもめの会」の活動を記録した、明るく楽しいSMプレイ小説です。この小説は原著作者・久道あゆみさんより許諾をいただいて掲載させていただいております。

この物語はフィクションです。描写における安全性・遵法性・実現可能性などは担保されておりません。実際に試みる場合はプレイメイトとの合意を得ることはもちろん、十分な安全確認を行い、法律に触れないことを貴方の責任において確認してください。結果、どのような損害が発生しても責任は負いません。